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『ビールの最初の一口とその他のささやかな楽しみ』(フィリップ・ドレルム著、高橋啓訳、早川書房)


c0077412_10192862.jpg『La Première Gorgée de Bière』(Philippe Delerm)
本書は日常生活の中で見言い出される至福の時を描いた34の小品から成っている。フランスの香と色彩にあふれる随筆集で、「清少納言とマルセル・プルーストの中間に位置し……」(オブセルヴァトワール)という評があるのもうなずける。各作品に添えられたカット(真鍋博)も洒落ている。
『日曜の朝のケーキの箱』『エンドウの莢むきを手伝う』『歩道のクロワッサン』『朝食の新聞』などからは、よき家庭人である男性の姿が浮かびあがる。
『ポケットの中のナイフ』『ダイナモの音』『桑の実を摘む』『夜の高速道路』『ツール・ド・フランス』『車の中でニュースを知る』『初心者のペタンク』などからは一人の時間、一人の思いを楽しんでいるときの男性の姿が浮かび上がる。
『ビールの最初の一口』『浜辺の読書』『日曜の夜』『秋のセーター』『モンパルナス駅の動く歩道』『映画』『ガラス玉』『アガサクリスティーの小説』『万華鏡をのぞき込む』などからは理屈をこねるのが好きそうな男性の顔が見えてくる。
さらに『ポルトにする』『エスパドリーユを濡らす』『アーケードの下のひらひら』『二つの自転車』などのように、フランス色が強すぎてあまりピンと来ない作品もある。ただ、たとえば『二つの自転車』の次のような文章を読むと、なんとなくわかったような気にさせられて、充分に楽しめるのだ。

「意味は同じ自転車でも、ヴェロとビシクレットは正反対だ。薄紫の蛍光色で流れるようなシルエットを描いて時速60キロで飛ばすのがヴェロ。二人の女子学生がブリュージュあたりの橋の上を並んで渡っていくのがビシクレット。(中略)ビシクレット派として生まれるか、ヴェロ派として生まれるか、それはほとんど政治問題だ。だが、こと愛することに関しては、ヴェロ派は断念せざるをえないだろう――なぜなら、人はビシクレットにしか惚れることができないから。」
(2012.8.8読了)
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by nishinayuu | 2012-10-02 10:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-10-04 18:37 x
34も至福の時間を思い出せるというのは幸福な人間ですね。自分の幸福な時間と不幸な時間を列挙してみるのも死ぬ前にするといいかもね。
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