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『きみはポラリス』(三浦しをん著、新潮社)


c0077412_9553431.jpg2005年から2007年にかけて小説新潮などに掲載された「恋愛をテーマにした短編」11編を収めた一冊。巻末に初出・収録一覧があるが、そこに「お題」とか「自分お題」という表記がある。著者によると、「お題」はテーマが依頼者から予め提示されたもの、「自分お題」は自分で勝手にテーマを設定したものだそうだ。この「お題」や「自分お題」を知らずに読むのと知ってから読むのとでは、作品の印象が違うかも知れない。
内容はボーイズラブ、ガールズラブ、三角関係、だらだらとした関係、怪しい関係、ほのぼのとした関係など様々。禁忌や犯罪と言えるものもあって、長編で読むのはちょっとつらいかもしれないが、そこが短編のよさで、さらっと読めてしまう。そんな中で印象に残った作品は以下の4編。

『骨片』――「あの頃の宝物」という「お題」の作品。老舗の和菓子屋の娘を語り手にした、古風でしっとりした雰囲気の作品。大学文学部の先生との会話も、いつの時代?というくらい風雅というか背筋がむずむずするというか。語り手の祖母は、自分の健康を気遣うあまり、寝床に横たわったまま5人の子を産み、家事も育児もせずに歳を重ね、老齢になっても旺盛な食欲を見せ、寝床の中からあれこれ指図して一族に君臨している。この人物像は凄すぎる。
『ペーパークラフト』――「三角関係」という「自分お題」の作品。ママ友がいない子育て中の女性。その夫。夫の高校時代の後輩。ペーパークラフトを仕事にしているこの後輩の男がくせ者。
『森を歩く』――「結婚して私は貧乏になった」という「お題」の作品。11編の中で最も爽やかで好感の持てる作品。貧乏といっても「赤貧洗うが如し」ではなく、稼ぎのない同居人ができたというだけのこと。なんだか「森を歩きたくなる」お話である。
『冬の一等星』――「年齢差」という「自分お題」の作品。車の後部座席でまどろみながら夢を見るのが好きな8歳の少女・映子。急用で大阪に行かねばならなかった文蔵(こんな名前ですが20代半ばの青年だそうです)が、映子に気づかないまま車を出してしまったため、映子は文蔵に誘拐された形になって大阪まで行ってしまう。そして大阪に着いたときに見上げた冬の空には、無数の星が散らばっていた。(2012.7.28読了)
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by nishinayuu | 2012-09-20 09:55 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by マリーゴールド at 2012-09-22 19:52 x
「ポラリス」には「北極星」と米国が開発した潜水艦用の「中距離弾道弾」の意味がありますが、どちらにもとれるお話が詰まっているような本ですか。
Commented by nishinayuu at 2012-09-23 10:02
「ポラリス」は北極星のほうでしょう。北極星そのものは出てきませんが。
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