『クラリモンド』その2(テオフィル・ゴーティエ著、岡本綺堂訳、青空文庫)

c0077412_956275.jpg『La Morte Amoureuse』(Théophile Gautier)
☆同じ青空文庫に別の訳者による『クラリモンド』があったので読んでみました。
☆今回の画像はエミール・ガレ作のランプで、ゴーティエがガレに捧げた詩「燕たちのひそひそ話」が描かれています。

芥川龍之介の訳は文字遣いも文体も独特で決して読みやすくはないが、陰鬱さと怪しいきらめきに満ちたこの作品の世界に引き込む力強さがある。一方、岡本綺堂の訳は非常に滑らかで美しく、ひっかかるところがほとんどないためすらすらと読めてしまい、物足りなさが残る。芥川は1892年の生まれで、岡本は1872年の生まれ。岡本のほうが20年も先に生まれているのに、文体は芥川よりずっと若かったということになるが、この作品の訳としては芥川訳に軍配を上げたい。因みにゴーティエは1811年の生まれである。
さて、善し悪しや好き嫌いは別にして、芥川訳と岡本訳の特に目につく違いを挙げてみる。左が芥川訳、右が岡本訳である。
○語り手の自称……「わし」/「わたし」
○聞き手の存在……若い相手に「君」と呼びかけて語っている/語り手の独白である
○文末の形……だ、である体/です、ます体
○僧院長の語り手に対する呼称……ロミュアルよ、など/ロミュオー君、ロミュオー卿など
○語り手を迎えに来る男……扈従/召仕(ページ)
○街で見かける若者……遊冶郎/姿のいい青年
○サルダナパルスへの言及……あり/なし
○赴任先と住まい……寺院の牧師館/教会の司祭館
○クラリモンドの饗宴の譬喩……ベルサガアルとクレオパトラの/バルタザールとクレオパトラの
○僧院長が語るクラリモンドの正体……何でも女性の夜叉だという噂ぢゃ。が、わしは確かにビイルゼバッブだと信じてゐるて/世間ではあの女のことを発塚鬼(ゲール)だとか、女の吸血鬼(ヴァンパイヤ)だとか言っているようですが、わたしはやはり悪魔であると思っています
○疾走する馬の譬喩……西風の神の胎をうけた牝馬が生んだと云ふ西班牙馬に相違ない。何故と云へば彼等は風のやうに疾いからである。/西風によって牝馬から生まれたスペインの麝香猫(じゃこうねこ)にちがいないとおもうくらいに、風のように疾く走りました。……(表紙に豹が描かれている版がある)
なお、芥川訳ではサルダナパルス、ビイルゼバッブ、ベルサガアルなどの名称についての説明はいっさいない。(2012.7.23読了)
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by nishinayuu | 2012-09-17 09:56 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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