「ほっ」と。キャンペーン

『サスキア』(ブライアン・ホール著、浅岡政子訳、角川書店)

c0077412_9183716.jpg『The Saskiad』(Brian Hall)
ニューヨーク州ノヴァマンダスの農場で暮らす少女サスキアの物語。12歳から13歳という微妙な年齢、特殊な家庭環境、人一倍強い感受性と空想力といった主人公の持つ特性と、自然保護運動、瞑想コミュニティー、喫煙や大麻といった社会現象を、めいっぱい盛り込んで構築した作品である。2段組で400ページ余りあり、力作であることは確かではあるが、あまりに多くのことが語られていて、焦点が定まらないことは否めない。また、デンマーク人のトマスをパイエケス人、ラップ人を初めとする自然派の人びとをヒュペルボレオス人と表現するなど、サスキアのこだわりに忠実すぎる記述がちょっとうるさく感じられる。

母親のローレンは栽培の達人で、「魔法の呪文を静かに唱え、見事な作物を育てる」。サスキアは飼育係で、牛のマリリンの乳を搾り、鶏に卵を産ませる。この農場をローレンはただ「ザ・プレース」と呼び、雄弁な気分なら「ザ・オールド・プレース」と呼ぶが、サスキアはストラトフォード・アポン・エイボンなどの名前に惹かれて「ホワイト・オン・ザ・ウォーター」と呼んでいる。
サスキア自身もいろいろな名前を持っている。海軍の艦長の前では「大尉」、ハーンの帝国をマルコと旅するときはアイヤルク、オデュッセウスのそばではサスキオン・モノゲネイアとなり、ティコ・ブラーエのところではアルベサスであるが、徹底的に想像力が欠如している「ノヴァマンダス人」からはサスキア・ホワイトと呼ばれている。サスキアは空想の世界を日常生活にも持ち込んで、農場でいっしょに暮らしている血のつながらない弟妹たちを、「大尉」である自分のクルーとみなしている。ミムは美しくて「ホンワカな女の子」なのだが甲板長、双子のオースティンとシャノンは雑用担当、ということにしている。ただし、7歳になってもオネショが直らないクウィニーは役立たずの厄介者でしかない。
農場には他にトレーラー族が二人いる。一人は弟妹たちの母親であるジョーで、煙草が手放せない陰気な女性。もう一人は自称作家のブラファルーで、ときどきローレンと大麻を回しのみしたりする。かつて農場は瞑想のためのコミュニティーだった。「ゴッドヘッド」と呼ばれていた農場には、大勢の人が集まって賑やかに暮らしていたが、やがて人びとは去っていった。ついには瞑想の師であるグルも出て行き、そのときにサスキアの父親であるトマスも去っていった。それからほぼ8年の歳月が流れた。
夏休みを控えたある日、トマスから「会いに来ないか」という葉書が舞い込んだ。ローレンは、トマスが会いたがっているのはサスキアだから自分は行かない、と言う。そこでサスキアは親友のジェーン・シングを誘う。褐色の肌と、艶やかな長い髪をもつ美しいジェーンは、サスキアより一つ年上の「大人」である。スキポール空港でトマスに迎えられた二人は、たちまちトマスの魅力に惹きつけられる。世界のあちこちを旅して回り、「グリーンピースとは折にふれて情報を交換して」いて、「ライストリュゴネス人」の捕鯨船を攻撃したこともあり、今は「ヒュペルボレオス人」の川を守るためにダムの建設を阻止しようと、二人を伴って建設予定地に向かう「パイエケス人」のトマス。サスキアは三人で過ごしたこの時期を「第1トマス時代」と名づける。夏が終わり、ノヴァマンダスに帰るときになって二人がいっしょに行こうと誘うと、トマスは「数日ならいいかもしれない」と言う。こうしてノヴァマンダスで、「第2トマス時代」が始まる。(2012.6.30読了)
[PR]
by nishinayuu | 2012-08-21 09:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/18365156
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『たった一つの父の宝物』(アン... 『はやぶさの大冒険』(山根一眞... >>