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『嵐をつかまえて』(ティム・ボウラー著、小竹由美子訳、白水社)


c0077412_9185364.jpg『Storm Catchers』(Tim Bowler)
夜の闇を切り裂いて、鋭い金属的なカチャッという音が家の中に響く。小さな弟のサムと二人だけで2階の部屋にいた13歳の少女エラはこの音の正体を確かめに階下に降りていき、そこでクマのような大男と遭遇する。エラは身をかわして秘密の通路に飛び込んでサムのところに行くと、サムを押し入れに隠して「絶対に出てこないように」と言い聞かせてから外に逃げる。しかし、追ってきた男に捕まり、舟に乗せられて洞窟に連れて行かれる。
暗闇恐怖症の少女エラが誘拐される場面から始まるこの物語は、ひたすらエラと家族の恐怖の三日間を描き続けていく。そもそもエラとサムがたった二人で家に残っていたのは、兄のフィルが両親との約束を破って友だちのところに遊びに行ったからだった。フィルはエラの行方を捜すのに必死で、その後も何度か両親の制止を無視して勝手な行動をするし、サムはサムでエラとの約束を破ってすぐに外に出てしまったし、そのあとも何度も行方不明になる(サムは他の人には見えないだれかの姿を見て会話を交わす異能の持ち主ということになっている)。なぜこの家には秘密の通路やら秘密の扉やらがあるのか、なぜエラは暗闇恐怖症なのか、といったことには何の説明も示されないまま、エラと家族のパニック状態だけが語られていき、サムの超能力のおかげでエラの居場所が見つかる、という納得できない筋立てである。納得できないのはそれだけではない。そもそも誘拐事件の元を作ったのが父親の若き日の過ちだった事がわかるのだが、そもそも両親の人柄や関係が語られていないので、この父親ならさもありなんという思いも、こんないい父親がまさかという思いも抱くことができず、へえそうなんだ、と思うしかない。
事件をきっかけにして子どもたちがどう成長したか、家族がどう再生していくか、ということは語られていない。これはあえて読者に託したのだと受け取ればいいのかもしれないが、誘拐犯の扱い方は後味が悪すぎる。読後の爽やかさ、カタルシス、しみじみした感動とはほど遠い作品である。

訳者あとがきによると、作者の三作目の作品『川の少年(River Boy)』は、1997年にイギリス最高の児童文学賞であるカーネギー賞を、『ハリー・ポッターと賢者の石』をおさえて受賞し、5作目であるこの作品も2002年度サウス・ラナークシア文学賞を受賞しているという。受賞作がすべて傑作とは限らない、ということを改めて確認できたのが収穫かもしれない。(2012.6.9読了)
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by nishinayuu | 2012-08-06 09:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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