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『小鳥はいつ歌をうたう』(ドミニク・メナール著、北代美和子訳、河出書房新社)

c0077412_16174464.jpg『Leur histoire』(Dominique Mainard)
物語は「おじいさん」のエピソードで始まる。この「おじいさん」は語り手の祖父というわけではなく、どこかの土地の、そしてすべての土地の「おじいさん」である。遠い田舎へ買い出しにいったおじいさんは、食料を手に入れて戻ってきたが、市の入り口で男たちに捕まってしまう。そして名前を聞かれたか書かされたのだろうが、おじいさんのことばは男たちのことばではなかった。それでおじいさんはそのままどこかに連れ去られ、二度と戻ってこなかった。そんなおじいさんのような目に合わないように、語り手の祖父母は国を捨てた。(祖父母の捨てた国がどこかは明記されていないが、語り手が祖母をババヤガーと呼んだりしているところからロシアだとわかる。)
語り手は小鳥屋でパートとして働きながら幼いアンナを育てているシングル・マザー。アンナの父親とはアンナが生まれる前に別れた。だからアンナは、語り手にとってかけがえのないたった一人の家族である。それなのに語り手はアンナと話をすることができない。アンナが口をきかないからだ。ほんの赤ちゃんだったときは泣いたり、笑い声を上げたりしていたアンナが、そのあとは声を出さなくなったのだ。語り手はアンナの服に名前や住所、好きな食べ物、気に入っている子守歌の歌詞などを書いた紙を縫い込む。どこかで迷子になったアンナが永久に手許に戻ってこなくなるのを恐れて。
語り手は、口はきかないけれども耳は聞こえているアンナを小学校に入れる。しかしアンナは他の子どもたちに虐められ、教師にももてあまされる。それで今度は耳の聞こえない子どものための学校にアンナを連れて行く。語り手とアンナを迎えたのはメルラン(アーサー王伝説に登場する魔法使い「マーリン」のフランス名)という男の先生だった。このメルランとの出会いがアンナを、そして語り手を、二人だけの閉ざされた世界から広い世界へと踏み出させることになる。(2012.6.2読了)

☆さまざまな方法を使ってアンナに声を取り戻させていくメルランは、まさしく魔法使いのような存在です。彼の魔法は語り手にも及んでいき、そのまま感動の結末へ、と思いきや、とんでもない展開が待ち受けていたのでした。残りの紙数では感動の結末は無理なのでは、とハラハラさせられました。
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by nishinayuu | 2012-07-28 16:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-08-01 08:30 x
多民族が混在し集まって来た所だからこそ生まれた物語だと思いました。日本では生まれない物語ではないでしょうか。言葉の回復の過程を知りたくなりました。
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