『バルタザアル』(アナトール・フランス著、芥川龍之介訳、青空文庫)


c0077412_22373981.jpg『BALTHASAR』(Anatole France)。「Mrs. John Laneの英訳より」
東方の三賢人の一人であるバルタザアルの物語。東方の三賢人は12世紀頃から老年、壮年、青年の三世代に描き分けるようになり、さらにヨーロッパ、アジア、アフリカの三大陸の象徴として一人を黒人として描くようになったという。この作品の主人公であるバルタザアルは黒人で、エチオピアの王という設定である。もう一人の重要な登場人物であるシバの女王は、紀元前10世紀頃(イスラエルの三代目の王ソロモンと同時代)の人物なのだが、この作品ではバルタザアルと同時代の人物になっている。なお、バルタザアルはラテン語名で、ヘブル語ではアメリウス、ギリシア語ではマガラトとなる。さて、物語はこんな具合。

エチオピア王のバルタザアルは22歳のときシバの女王バルキス聘問の途につく。魔法師のセムボビチスと宦官のメンケラが同行する。12日の旅を終えてバルキスに会ったバルタザアルはたちまち彼女の虜になる。怖れというものを経験してみたい、というバルキスの願いを聞き入れて、二人は乞食に変装して市場に行く。酒場で飲み食いし、亭主や客たちと乱闘したあと、河原で抱き合って一夜を過ごす。朝になって盗賊に捕らわれ、今度はその盗賊の頭とけんかして大けがをしたバルタザアルは、15日間、人事不省に陥る。16日目、バルキスの宮殿で目を覚ましたバルタザアルがバルキスを探すと、彼女は美丈夫のコマギイナの王と密会中だった。バルタザアルがバルキスの不実をなじるとバルキスは「夢でも見たのでしょう」と冷ややかに言い放つ。妖婦に弱みを見せまいとバルタザアルは自室に駆け戻ったが、傷口が開いて卒倒し、3週間人事不省に陥る。
22日目に目を覚ましたバルタザアルは、バルキスが不貞なので恋も禍でしかなく、自分には幸福はない、とセムボビチスに訴える。セムボビチスは「智恵は幸福を与える」と諭す。バルタザアルは知恵をつけて魔法師になろうと決心し、自然を眺めて暮らす。そして魔法師になるために、父王の全財産を傾けて2年がかりで、無辺の天空が望める塔を建てる。バルタザアルはセムボビチスの指導のもとで天文の研究に励む。そんな王をみてメンケラが「バルキス女王の片脛は毛だらけで、片足は2つに裂けた黒い爪」だと教える。バルタザアルはそれが事実とは違っていて、女王が非常に美しいことを自分の目で見て知っていたが、異類と思われている女と関係したことに嫌悪を覚え、バルキスには二度と会うまいと思うのだった。バルタザアルが女王を愛していないという噂が耳に届くと、バルキスは黒い男に裏切られたと悔しがり、愛を取り戻すべくエチオピアに向かう。自分の城に向かってくる一行の中にバルキスの姿を認めたバルタザアルは、激しい懊悩に襲われて天を仰ぐ。すると天の星が告げる。「没薬をとってわれに従え。生まれむとする幼子のもとへ至らしめむ」と。その幼子こそ後に王の中の王となるイエスだった。(2012.5.21読了)

☆話の展開が早く、訳も滑らかで読みやすい。表現や文字遣いが古くさいと言えば古くさいが、「聘問」「私窩子」「臥榻」など、ふだん余り見かけないことばに出逢えて興味深かった。「私窩子(しくぁし)」は「淫売婦、私娼」のこと、「臥榻(ぐわたふ)」はベッドのこと。
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by nishinayuu | 2012-07-19 22:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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