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『頭のうちどころが悪かった熊の話』(安東みきえ著、理論社)

c0077412_21435857.jpg読書会「かんあおい」2012年5月の課題図書。
装丁・挿絵(下和田サチヨ)の雰囲気と文字の大きさなどから、一見したところでは幼児から小学校低学年向けの本に見えるが、奇抜なことば遊びや意味深な話がいっぱい盛り込まれており、生意気盛りの少年少女でも、人生経験を積んだ中高年でも、それぞれがそれなりに楽しめそうな作品である。全体は7つのエピソードからなり、それぞれのエピソードには中心となる動物、鳥、虫などがいて、独立した一つの話として読むこともできる。ところどころに「旅人」が登場して、全体を緩く繋ぐ役目を果たしている。
「頭のうちどころが悪かった熊」――熊はレディベアが誰なのか思い出せない。どこかで頭を打ったらしいのだ。陸亀とクマバチ、毛虫に尋ねて回る。黒くて毛だらけで4本脚らしいとわかって、黒い毛織りのクッションを載せたゆり椅子に座ってみる。ゆり椅子は恐怖で熊を放り出す。そこにレディベアが現れて、どこに行ってたのさ、とパーンと熊の頭を後ろからはたく。
「いただきます」――旅人が動物たちの嘆きを順に聞かされる。トラはキツネを食べた罪深さを嘆き、キツネはニワトリを、ニワトリはトカゲを、トカゲはクモを、クモは金バエを食べた罪深さを嘆く。ぐるぐるまわりだったんだね、と旅人はトラに言って、パンを分け与えてやる。トラの目には涙があふれ、そして口には涎があふれる。パンではもの足りないトラの目の前には旅人が……。
「ヘビの恩返し」――父さんヘビが子どものヘビに、カコの実を食べると過去のことしか考えられなくなるから食べてはいけない、と言ったそばから自分がカコの実を食べてしまう。子ヘビが卵の飲み込み方を聞いても父さんヘビは、手があいたら教えてやる、というばかり。子ヘビは、もう父さんにはお手あげさ、と思う(どちらも手なんかないのに)。そのうち親子げんかになり、父さんヘビは子ヘビを呑み込んでしまう。そこへトラが通りかかって、父さんヘビの口からのぞいている子ヘビのしっぽを引っ張って出してやる。ところが子ヘビが父さんヘビのしっぽをつかんでいたので、父さんヘビは裏返しになってしまい……
「ないものねだりのカラス」――木の枝と枝が作った白い隙間を見て、シラサギだ!と思ったカラスの話。
「池の中の王様」――100匹兄弟の一人であるオタマジャクシの〈ハテ?〉は1/100であることに満足せず、親のようになりたいとも思わなかった。やがてハテはヤゴと友だちになり、二人は、離れていても、どんなに姿を変えても、お互いに相手を見つけられる、友だちってそういうもんさ、と言い合って暮らす。そしてある日、ハテはなりたくなかった父親と同じ姿になっている自分を発見し、ヤゴはヤゴで……。
「りっぱな牡鹿」――牡鹿の名はホーイチ(この名に注意!)。森のみんなの悩みを聞いてやっている。アライグマが潔癖症の悩みを相談にきて「パンを洗ってしまうのだけれど、洗ってしまったら意味がなくなる」というのを聞いて、なにかがツノにひっかかった(鹿なので)。ダチョウが、飛べないのに鳥でいることに何の意味があるの、と聞いてきたとき、ホーイチはひっかかっていたものの正体に気づいて爆発する。生きていくのに意味なんてない、生きていくだけで充分なんだ、これからは意味のあることはいっさいしない、と決心したホーイチは……。
「お客さまはお月さま」――〈頭のうちどころが悪かった熊〉の親友で、不眠症の月の輪熊の話。風がびょうびょう吹く寒い夜、月の輪熊が空を見上げると三日月がついてくる。ずっとついてきてほしいなあ、というと、月は洞穴の家までついてきて、いっしょに家の中に入ってくる。きみの胸にぼくがいる。ぼくたちは兄弟かもしれない、と言って。さてそれから……。(2012.4.29読了)
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by nishinayuu | 2012-06-21 21:44 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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