「ほっ」と。キャンペーン

『A Patchwork Planet』(Anne Tyler著、 Ballantine Books)


c0077412_13205512.jpg物語の舞台はアン・タイラー作品の定番の舞台であるバルティモア。登場人物は、これもアン・タイラー作品では定番といえる、富や名声とは縁のない世界の人びとである。
物語は主人公のバーナビーとソフィアがフィラデルフィア行きの列車に乗り合わせる場面から始まる。発車間際にある男が、フィラデルフィア駅で待っている娘に忘れ物のパスポートを渡してくれ、と居合わせた女性に頼みこむ。車中でバーナビーはその女性を観察する。上品できちんとしていて、確かに信頼できそうな女性である。我が身を振り返ってバーナビーは、男が自分を選ばなかったのは当然だと納得する。もうすぐ30歳の誕生日を迎えるバーナビーは、結婚して娘をもうけたが離婚しており、住まいは賃貸住宅、仕事は「何でも屋」の職員、という世間的にはなんの信用もない男である。この日は彼が月に一度、9歳の娘と過ごすことを許されている日だったのだが、約束の時間に遅れたため元妻から「もう来るな」と言われてしまう。
バーナビーの雇い主ミセス・ディブルは自分の親を見送った経験から「何でも屋」をはじめた女性で、ある店でバイトをしていたバーナビーを今の仕事に引き込んだ。バーナビーの哲学的雰囲気(彼女のことばによるとIt was very Zen of you)が気に入ったのだという。仕事先は主に老人たちの家で、買い物、掃除、修繕、片付など、それこそ「何でも」やるし、時間も早朝から深夜まで、顧客の要請があればいつでも駆けつける。その顧客にソフィアの叔母が加わる。列車に乗り合わせて以来、少しずつ近づいていたソフィアとバーナビーの距離が一挙に縮まる。やがて彼女との将来を考えるようになったバーナビーは、彼女をまず母方の祖父母に紹介する。彼らは全面的にバーナビーの味方だからだ。それから実家の両親や兄の一家にも会わせる。美人で何事も優雅に完璧にこなすソフィアのおかげで、一家の困り者のバーナビーは少し面目を施す。ところが、ソフィアの叔母が、お金を盗まれた、と言いだしたことからバーナビーは窮地に立たされる。若い頃、警察の世話になったこともあるバーナビー。その彼を全面的に信頼してくれたのは、飾り気も色気も皆無の、気の合う仕事仲間でしかなかったマータインだった。

切手大の布をつなぎ合わせた、今にもばらばらになりそうなパッチワーク作品「惑星地球」を残したミセス・アルフォードをはじめとする「何でも屋」の顧客たち、バーナビーの一族の人たちなど、一人一人の人物が目に見えるようにくっきりと丁寧に描かれている。また、下記のような心に残る描写があちこちに散りばめられていて、読み終えるのが惜しくてたまらなくなる作品である。
*日の出前の一瞬、空が深く透明なブルーになり、loom!というような音が聞こえる。
*離婚した頃、娘のオウパル(Opal)は父親の顔がわかり始めたところで、バーナビーがベッドに近づくと「ああ」と声を上げて身をくねらせ、抱き上げてもらおうと手を伸ばしたものだった。
(2012.4.22読了)
[PR]
by nishinayuu | 2012-06-13 13:22 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/18096592
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by マリーゴールド at 2012-06-20 10:47 x
愛情の対象になる人達ではなく、一緒に仕事をしてきた人が唯一人信頼したというところが納得できるし、そこが人の思考の盲点ですね。
<< 大山守の命 その2 『犯罪』(フェルディナント・フ... >>