『犯罪』(フェルディナント・フォン・シーラッハ著、酒寄進一訳、東京創元社)


c0077412_10289.jpg『Verbrechen』(Ferdinand von Schirach)
罰する立場ではなく弁護する立場から「犯罪」を描いた、人間的温かさのある犯罪小説である。登場人物に外国人が多いのはたまたまだろうか、あるいは移民問題を抱えるドイツの現状を反映したものだろうか。
巻頭にヴェルナー・K・ハイゼンベルクの「私たちが物語ることのできる現実は、現実そのものではない。」という文が掲げられており、巻末には「Ceci n’est pas une pomme.これはりんごではない」ということば(René Magritteがリンゴを描いた絵に添えたことば)がなんの説明もなく置かれている。なかなかしゃれた作りではある。

『フェーナー氏』Fähner――元開業医のフェーナー氏の事例。72歳のある朝、彼は妻を斧で撃ち殺した。結婚したとき「決して捨てない」と誓わせられた彼は、ずっと妻によるDVに耐えてきたのだった。
『タナタ氏の茶盌』Tanatas Teeschale――日本人の豪邸に強盗に入った外国人三人組の事例。盗品を売りさばく段階で関わった悪党たちが次々に殺され、縮み上がって盗品を持ち主に返して事なきを得る。
『チェロ』Das Cello――テレーザの事例。彼女は20歳になったとき、弟とともに、無理解で横暴な父親の元を去った。二人が独立を謳歌していた旅先で弟が大腸菌に感染、さらにバイク事故で脳に損傷を受けた。姉のことも見分けられなくなった弟だが、姉の弾くチェロには反応を示した。
『ハリネズミ』Der Igel――レバノン人のカリムの事例。犯罪者一家の9人兄弟の一人、ワリドが窃盗で裁判にかけられる。彼の犯行であることは明白だったが、証人として喚問された弟のカリムはワリドのアリバイを主張する。一族でただ一人の切れ者、カリムの挑戦が始まる。
『幸運』Glück――故郷を捨ててベルリンにたどり着いたイリーナと、16歳から路上生活をしていたカレの事例。ある日、二人の部屋でイリーナの「客」が心臓発作で死ぬ。動転したイリーナは友人の家に行ってカレを待つ。彼女の留守に家にもどってきたカレはイリーナが捕まることを恐れて死体を解体する。
『サマータイム』Summertime――著名な実業家ボーハイムの事例。彼がホテルで会っていた女性が、頭部をつぶされた死体となって発見された。彼女は借金に苦しむ恋人、パレスチナ難民のアッバスのためにお金を稼ごうと、アッバスに隠れてボーハイムと会っていたのだ。
『正当防衛』Notwehr――正当防衛で釈放された男の事例。スキンヘッドのごろつきが二人、駅で一人の男にナイフと金属バットでちょっかいを出したところが、逆襲されて命を落とした。目撃者によると一瞬の早業だった。男は完全黙秘のまま、名前も身元も不明のまま釈放され、立ち去った。
『緑』Grün――伯爵の御曹司フィリップの事例。羊の眼球がくりぬかれて殺される事件が相次ぐ。羊の目が怖い、と言うフィリップの仕業だった。彼はザビーネという少女の写真をケースに入れて持っていたが、その写真の目もくりぬかれていた。そしてそれから何日も、ザビーネは行方不明のままだった。
『棘』Der Dorn――博物館の警備員フェルトマイヤーの事例。事務職員のミスでローテーションに組み込まれ損なった彼は、同じ展示室で23年を過ごすことになる。『棘を抜く少年』の「棘」に取り憑かれて。
『愛情』Liebe――カニバリズムの症状を呈したパトリックの事例。
『エチオピアの男』Der Äthiopier――2回の銀行強盗をしたミハルカの事例。不幸な育ち方をしてすさんだ生活をしていたミハルカは、人生をやり直すために銀行強盗をして大金を手にし、エチオピアへ飛んだ。
家族を得、村人の信頼も得て幸せだった。が、当局に目をつけられ、ドイツ大使館に送られ、過去の銀行強盗がばれてハンブルクに送還された。3年後、刑を終えたミハルカは、愛する家族の許に帰るためにまた銀行強盗をする。「お金がいるんです。本当にすみません」と言いながら。 (2012.4.19読了)
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by nishinayuu | 2012-06-09 10:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-06-09 15:13 x
どれもおもしろそうですね。日本人というのは豪邸に住まないという感じですが、外国人の印象は違うのですね。人を殺してでも目的のためには手段を選ばない人達という印象もあるんですかね。
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