『金曜日のアンナ〈不思議なことばの世界へ〉』(ヘレーネ・ウーリ著、福井信子訳、大修館書店)


c0077412_1317616.jpg『Ann på fredag』(Helene Uri)
ノルウェーの言語学者による言語学入門書である。ノルウェー語についての話題が中心であり、当然のことながらノルウェー語をはじめとするヨーロッパ語のオンパレードである。したがって、これも当然のことながらカタカナがやたらに多い翻訳書である。注も多い。というより、注がなければ理解できない部分も多いと思われる。
ところでこの言語学入門書は物語の体裁になっていて、ビョルン・オスカルという少年とアンナという20歳くらいの女性のやりとりという形で展開していく。ビョルン・オスカルはママとまだ8ヶ月の妹のヘレ、そして猫のグスタフ・マーラー(偉そうな!)と暮らしている。金曜の晩に仕事で家を空けることになったママは、ヘレのためにベビー・シッターを頼む。打ち合わせにやってきたアンナは、うす茶色の長い髪で丸い眼鏡をかけ、大きな突き出た耳をしている。賢そうだが退屈そうな人だ、と「ぼく(ビョルン・オスカル)」は思った。そして金曜日。アンナの大きな耳が燃えるように輝いたと思うと、「ぼく」の目の前にバイキングの男が現れる。アンナはバイキングの男と古ノルウェー語で話し、古ノルウェー語の音やら「格」やら、他のヨーロッパ語との関係やらを「ぼく」に解説する。こうして「ぼく」は毎金曜日、アンナの言語学講義をはじめは嫌々ながら、そのうちぐんぐん引き込まれて聞いていくことになる。講義の内容は実に多彩で充実しており、まさに言語学入門にふさわしい。題目を列挙すると――文字について(発音通りに書かないのはなぜか)、印欧語について、ノルウェーの言語事情、外来語と借用語、言語の役割、言語の構造、言語の相対性(何語を話すかで世界も違って見える?_)、言語の生得性(習わなくても話せるようになる?)、左脳は学者で右脳は芸術家、など。
そして最後の章のタイトルは「アンナは誰?」となっており、赤いきいちごのドロップを口に放り込んでいたアンナ、耳が真っ赤になるとなにかが起こったアンナの正体が、ことば遊びの手法で明かされる。

訳者も言うように、体裁は児童書的で内容は専門的というのは『ソフィーの世界』と同じ手法である。ただ、テーマが言語であるため、翻訳書としては『ソフィーの世界』ほど一般に受け入れられるとは思えない。訳者は中・高校生に読まれることを期待しているようだが、いろいろな言語に馴染みの薄い中・高生には内容が難しすぎるし、いろいろな言語に関心のあるような中・高生の場合は物語の設定を幼稚に感じるのではないか、と思うからだ。(2012.4.9読了)
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by nishinayuu | 2012-05-22 13:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-05-24 16:26 x
学術的な専門書を児童書の体裁でわかりやすく紹介するというアイディアはいいですね。映像化もできそうな内容のようですね。日本だと漫画にするのでしょうね。
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