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『わたしの中の遠い夏』(アニカ・トール著、菱木晃子訳、新宿書房)


c0077412_1512588.jpg『Motljus』(Annika Thor)。原題の意味は『逆光』。
著者は1950年スウェーデン生まれ。デビュー作の『海の島――ステフィとネッリの物語』でニルス・ホルゲション賞やポーランドのヤヌシュ・コルチャック賞、『ノーラ、12歳の秋』でアウグスト・ストリンドベリ賞などを受賞している(以上、巻末の紹介記事より抜粋)。
語り手の「わたし」が朝刊の死亡記事に載っている顔写真に大きな衝撃を受けるところから物語は始まる。「わたし」はとっさにその新聞を隠そうとする。顔写真が夫のスタファンの目に触れるのを恐れたのだ。けれどもスタファンは、いつものように朝食を食べながら新聞を読み進めていく。そしてついにその死亡記事に目を止める。「ロニーが死んだ」と言って「わたし」を見たスタファンの視線は容赦なかった。「記事を見たんだろ?それなのに何も言わなかったね?なぜだ?」と言うスタファンに、「わたし」は「ただ話したくなかっただけ」と応える。「ロニーはぼくたち共通の、友人だった」とスタファンは言ったが、「わたし」は友人という単語の前に、一瞬の間をはっきりと感じ取った。
30年前の夏、マリーエ(わたし)とスタファン、モニカとエーリック、ピーアとトールビョルンという三組のカップルとロニーはストックホルム郊外の湖畔にある白い家で共同生活を送った。それは古い価値観や権威に抵抗して「自由」と「連帯」をスローガンに掲げる若者たちの新しい共同体だった。
みんなより少し遅れてロニーがやってきたとき、マリーエはなぜか「ロニーはわたしのためにここに来てくれたのだ」と強く感じた。それからはロニーのことば、ロニーの視線、ロニーのしぐさがことごとくマリーエを虜にしていく。マリーエはやがて身も心も完全にロニーに捧げるようになるが……。
新聞に載った訃報をきっかけに、30年前に引き戻されたマリーエは、ロニーの葬儀に出かけ、そこでロニーの前妻からロニーが撮ったビデオの存在を知らされる。マリーエはあの夏の白い家に籠もってビデオを再生する。そこにはあの夏の記録と、そしてロニーの生い立ちを物語る未完成作品が収められていた。夏の白い家はもと少年教護院で、そこには少年ロニーの足跡が残っていた。

語り手をロニーに変えても、ロニーの弟に変えてもまた別の味わい深い物語ができそうな、中身の濃い物語である。(2012.3.26読了)
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by nishinayuu | 2012-05-13 15:01 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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