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『雪男たちの国』(ノーマン・ロック著、柴田元幸訳、河出書房新社)


c0077412_9113881.jpg『Land of the Snow Men』(Norman Lock)
冒頭に掲げた「編者まえがき」の中でロックは、「この作品はジョージ・ベンデルという人物の残した原稿を筆者が編集したものである」として次のように記している。
ジョージ・ベンデルはスコット、ウィルソン、バワーズが南極の棚氷で絶命した際に居合わせたため、彼らの最後の日々を日誌に記して『雪男たちの国』というタイトルを付けたという。すなわち『雪男たちの国』は、ベンデルによるかの不幸な出来事の証言、ということになる。ところが、いくつかの資料をつき合わせてみるとベンデルが南極にいたのは1913年だったことが判明した。すなわち、かの不幸な出来事の翌年である。このことから『雪男たちの国』は純然たる想像の産物であると考えざるを得ない。ところでベンデルはフィラデルフィア在住の建築家だったが、若くして理性に異常をきたして施設に収容されており、記録に残った歴史にほとんど難の痕跡も残していない。筆者のロックがあるサナトリウムで神経衰弱の療養をしていたとき、回復期の最後に古い資料の箱に目を通す仕事を担当医から託されたのだが、箱の一つから『雪男たちの国』が出てきたのだった。
以上のような仕掛けのもとに『雪男たちの国』の物語は展開される。なぜか極寒の地に瞬間移動してしまった「私」を彼らはすんなり受け入れる。彼らとは、任務の合間にレコードを聞いたりチェスをしたりして気を紛らわせているバワーズ、オーツ、ウィルソン、エヴァンズたちと、ひとり離れて厳格な態度を崩さないスコットである。しかしスコットはアムンゼンのことをくよくよ考えている、と「私」は見抜く。雪と氷に閉ざされた世界の中で、隊員たちは次第に現実と幻想の境に引き込まれていき、雪原に女たちが現れるのを見たり、ヨハン・シュトラウスと交信して、ワルツ王が彼らのために作曲した「雪男たちのワルツ」にあわせて氷棚の上で踊ったりする。やがて隊員たちはひとり、またひとりと氷の世界に呑み込まれる。そして「私」は最後に残ったスコットを、迎えに来たトロリーバスに押し込む。
スコット隊の人びとの最後の日々を温かい共感を持って叙述することによって、彼ら一人一人に新しい命を与えた見事な作品である。(2012.3.24読了)
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by nishinayuu | 2012-05-10 09:11 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-05-10 20:30 x
小説にはいろいろな切り口があるんですね。過去を臨場感を持って再現しつつファンタジーに包んでいくのですね。
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