『メイの天使』(メルヴィン・バージェス著、石田善彦訳、東京創元社)

c0077412_21221179.jpg『An Angel for May』Melvin Burgess。作者は1954年ロンドン生まれ。この作品はもともと英国ではヤングアダルト向けに出版されたもの。解説を書いている金原瑞人によるとヤングアダルト小説の特徴は「主人公が若者であること、残虐な暴力描写がないこと、濃密なセックス描写がないこと」だという。この作品はこの三つの特徴を備え、タイムスリップというSF的要素と、成長物語という児童文学の定番を組み合わせている。
4月のある日、主人公のタムは廃墟となっているソウト・イット農場で、人なつっこい犬と出会う。犬といっしょに暖炉の中で休んでいると、いい匂いがしてきて、トーストを焼く少女の姿が見えた。少女は犬をよく知っているらしく、犬にウイニーと呼びかけるが、やがて消えてしまう。そのあと外に出ると異様な姿をした浮浪者の老婆ロージーが立っていた。犬のウイニーはその恐ろしげな老婆に駆け寄ってタムのところに引っ張ってくる。まるで紹介するかのように。また別の日、タムは町でウイニーと出会い、じゃれ合っているうちにいつの間にかソウト・イット農場に来てしまう。暖炉の前にロージーが立っていた。ロージーとウイニーに促されるようにタムが暖炉の中にもぐり込むと、タムの下の地面が消えた。気がついたとき、タムは農場の外にいて、季節は秋だった。
こうしてタムは50年前の世界に放り込まれる。当時の首相はウインストン・チャーチル。ウイニーの名はミスター・ナッターがこの首相の名をとって付けたという。町はナチス・ドイツの爆撃に脅かされていたが、ソウト・イット農場は平和で活気に満ちていた。農場主のサム・ナッターは降って湧いてきた得体の知れないタムを喜んで迎え入れた。養女のメイが初めて人に心を許したからだ。ミスター・ナッターは4年前、4歳のメイを施設からもらい受けてきた。不幸な育ち方をしたメイはミスター・ナッターにも心を開かず、ミスター・ナッターが居心地よく整えた犬小屋でウイニーといっしょに寝起きしていた。少しずつ農場の仕事を覚えてきていたが、遊び相手は豚のスポットとウイニーだけだった。そこへ自分と同じ「みなしご」のタムが現れたので、メイは急激に変貌してミスター・ナッターや手伝いにやってくるミセス・ピクルズをびっくりさせる。ミスター・ナッターはタムを「メイの天使だ」とまで言った。けれども三日目、ロージーとウイニーのそぶりから、タムはもとの世界に帰るときが来たのを知る。
このあとはミステリーの終盤といった感じの展開となり、最後はロージーがタムの家に受け入れられる、という感動的場面になっている。物語の始めのほうでロージーが家に闖入してきたときに、ロージーが坐りそうなところにあらかじめ新聞紙を敷いたりした母親もずいぶん成長したわけだ。

☆一つ覚えました。メイの寝起きしている犬小屋には「天上と床、そして壁まで、びっしりとアイダーダウンの布が張りつけてあった」とあるのですが、アイダーダウンが何のことかわからなかったので調べてみました。アイスランドやグリーンランド地方の海岸にのみ生息する毛綿鴨(アイダーダック)の巣から採れるダウンのことだそうです。サム・ナッターがメイをどんなに大切にしていたかがわかりますね。(2012.2.18読了)
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by nishinayuu | 2012-04-12 21:22 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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