『チェロキー』(ジャン・エシュノーズ著、谷昌親訳、白水社)
2012年 03月 27日
原題はCherokeeで1983年の作品。タイトルはジャズのスタンダードナンバーから取ったものだとか。アメリカ原住民に関する話ではなくて、パリを舞台とした「遺産相続」を巡る話である。
まず、ひとりのたくましい男が登場する。男は前日盗んだ大金を懐にしている。バーでその大金を目に止めたバーテンが、若い男に合図してたくましい男をナイフで襲わせる。たまたまそこに居合わせた背の高い男が若い男を殴りつけ、その隙にたくましい男はバーを走り出る。背の高い男があとを追って走り、声をかける「どうしたんだ?力になろうか?」と。たくましい男クロコニャンと背の高い男ジョルジュ・シャーヴとの出会いの場面である。ジョルジュはしばらく後にまたクロコニャンに出会う。法律相談所のベネデッティのもとで働き始めて間もなく、逃げた女房を捜して欲しいという依頼人から相手の男の特徴を聞いて、すぐにそれがクロコニャンだとわかったからだ。ジョルジュに借りがあるクロコニャンがあっさり女を返したので、ジョルジュは点数を稼ぐ。
このあとジョルジュの従兄フレッド、イギリスの資産家ギブズ、ベネデッティのもとで働く二人組の調査員ボックとリペール、依頼人のシュピールフォーゲル(しゃべる鳥!)博士と鸚鵡のモルガン、ジョルジュたちの叔父フェルナン、二人組の刑事ギルヴィネックとクレミュー、謎の女性ヴェルトマン、サーカス劇場の役者たち、さらに怪しい宗教儀式を行う人たちまでが入れ替わり立ち替わり登場する。また、場面が次から次へと細切れに転換し、まさにテンポの速い映画のような具合に話が進んでいく。要するに、昔、大富豪のマルグリット=エリー・フェロという男が「五代先の子孫が死に絶えるまで遺産は相続させない」と言い残して死に、今やその五代先の子孫が死に絶えたと思われる、ということから生じるごたごたを描いた話なのであるが、ちょっと目をはなすと人物も状況もわからなくなりそうなので、メモをとりながら読み進めたのにもかかわらず、けっきょくよくわからないまま終わってしまった。「クレミューがファーガソン(ギブズ)に近づいた。おそらく、クレミューにはまだ納得のいかない点があるのだろう」という文が最後のほうに出てきて、思わず苦笑してしまった。(2012.2.6読了)