『冬物語』(カーレン・ブリクセン著、渡辺洋美訳、筑摩書房)

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デンマークを舞台にした近代の神話、伝説、あるいは奇譚といった趣の物語集。北国の冷たく透きとおった空気が肌に染みこんでくるようで、真冬に読むのにふさわしい作品である。



『少年水夫の物語』――「つるの恩返し」ならぬ「ハヤブサの恩返し」の物語。
『カーネーションをつけた青年』――カーネーションをつけた青年の幸福に輝く顔を見た青年作家は、自分もこの世のどこかにある幸福を探しに行こう、と置き手紙を残して妻のもとを去るが……。
『真珠』――ノルウェーに新婚旅行に行ったイエンシーネ。紐の切れた真珠の首飾りを、オッダ村の貧しい靴屋に預ける。修理されて戻ってきた首飾りには立派な真珠が一個余分についていた。
『ゆるぎない奴隷所有者』――主人と奴隷の役割を交代で演じながら生きていく貧しいけれど勇敢な美しい姉妹。
『エロイーズ』――普仏戦争の前夜、フランスとの国境に近いザールブルクの旅籠屋に打ち寄せられたフランス人たちを救ったのは美しい貴婦人、マダム・エロイーズだった。
『夢みる子』――不運な一族の血をひくイエンス少年は、老女アーネ嬢の語る空想の叙事詩を聞きながら育った。養母として彼を迎えにやってきたエミーリエに、少年は「ママ、これでいっしょに家にもどるんだね」と言う。そしてたちまちエミーリエ夫婦は夢みる子の夢の世界の住人となる。
『魚―古きデンマークより』――1286年にデンマーク王エリク・グリッピングが臣下のスティーによって殺害された。この事件を伝える古歌謡を基にして語られる、スティーの妻インゲボーの指輪がエリク王の手にわたったいきさつ。
『アルクメネ』――子どものいない牧師夫婦の許にもらわれてきた少女アルクメネの数奇な運命を、兄弟のようにして育ったヴィルヘルムが語る。中編か長編にもふくらませることができそうな中身の濃い物語。
『ペータとローサ』――大地も大気も等しく慈悲と希望から見放されていた100年前のある年、固く凍ったデンマークとスウェーデンの海峡で、少年と少女は氷の上に取り残された。本短編集で最も寒くてもっとも甘美な物語。
『嘆きの畑』――前作とは一変して炎暑の夏の物語。荘園主は納屋に放火した疑いでひとりの若者を捕らえる。若者は無罪を神掛けて誓い、若者の母親アーネマリも5日の間泣き通しで息子の無実を訴える。荘園主はアーネマリに提案する。目の前のライ麦畑を一日で、ひとりだけで刈り取れたら息子を帰してやる、と。大の男が三人かかっても一日仕事の作業に必死でとりくむアーネマリを、荘園主は見守る。
『心のためになる物語』――『カーネーションをつけた青年』に登場した青年作家が再び登場。パリのカフェで友人のイニアスから、ペルシャの王子ナスルッディンの『千夜一夜物語』を地でいくような物語を聞かされる。(2012.1.15読了)

☆カーレン・ブリクセンは作者がデンマーク語で書くときの名前で、英語で書くときの名はイサク・ディーネセンです。イサク・ディーネセンの『バベットの晩餐会』は独特の雰囲気のある傑作で、映画も原作の雰囲気を再現したすばらしい作品でした。
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by nishinayuu | 2012-03-10 10:43 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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