『あたしのママ』(ジュスティーヌ・レヴィ著、河野万里子訳、Discover21,Inc.)


c0077412_10244571.jpg原題:Le rendez-vous。フランスの哲学者ベルナール・アンリ・レヴィの娘である著者(1974年生まれ)のデビュー作。
語り手の「わたし」ルイーズは18歳。サン・ジェルマン・デ・プレのカフェ〈レクリトワール〉で、ママを待っている。昨日、留守電に「明日の11時に〈レクリトワール〉でどう?」というママからのメッセージが入っていたからだ。約束の時間はとうに過ぎているがルイーズは待ち続ける。ママが時間通りに来ないのはいつものことだ。そしてママは自分を正当化する理由を並べ立てる。殺し屋に追われていた、風邪をひいた叔母の代理で投票に行ってきた、おぼれかけてたネコを助けた、起きられなかった、ビタミン剤だと思ったら睡眠薬だった、などなど。嘘はママの憂鬱やでたらめ病の薬であり、ママは現実をなにもかも無視して幻想の中で生きているのだ。それでもママは結局現れるだろう、店中の注目を集めて私の前に坐ると、あたりの空気が一瞬しんと静まりかえるだろう、とルイーズは考える。ママはとびきりの美人なのだ。
ルイーズの目はカフェに入ってくる人びとを追い、心は幼い頃から現在までのあれこれの思いに耽る。世界的な指揮者のパパ。モデルとして活躍していたママ。パパがママから逃げ出したころからママの人生は崩壊していき、奔放で混乱したものへと変わっていった。そしてママはルイーズの中にパパの面影を探し、ルイーズから立ちのぼる幸福の記憶を愛した。パパとママの命はルイーズを通して結ばれていたのだ。それなのに、ルイーズもママから逃げ出した。7歳のときだった。
ウエイターがときどき注文を取りに来る。しかたなく、そのつどなにか注文する。ポロネギのタルト、ピクルス、イチゴミルク、濃いめのコーヒー、薄めのコーヒー、カフェインレスコーヒー、という具合に。知人や見知らぬ人も声をかけてくる。待ち続けて6時間経ったとき、気分転換に本屋〈ピュフ〉に出かけて雑誌を買い、ついでにママのためにエキゾチックな植物・サボテンも買ってカフェに戻る。ウエイターは新しい人に替わっている。7時間半経ってもママは現れない。でも、別の人が現れて、ルイーズは新しい人生を歩み出す。
何度も裏切られながらも母親を気遣い、慕い続けるルイーズの痛々しく鮮烈な18年の時の流れと、法学部を目指す学生であるルイーズの瑞々しい感性にあふれる数時間の時の流れが同時に描かれており、構成も内容も印象的な作品である。(2012.1.9読了)
[PR]
by nishinayuu | 2012-03-07 10:25 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/17619305
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by マリーゴールド at 2012-03-09 20:58 x
母親と娘の関係を娘の目から描いたものですね。奔放な母親に対する恨みつらみがなく、個として自立している娘の姿勢を感じます。フランス的というか、日本的なもたれ合い母子関係ではなさそうな点で、ぜひ読んでみたい本ですね。
Commented by nishinayuu at 2012-03-10 10:57
『あたしのママ』というのは、手にとるのをためらわせるようなタイトルですが、読み終えたときには、このタイトルでもいいかも、と思いました。
<< 『冬物語』(カーレン・ブリクセ... 『ブリーダ』(パウロ・コエーリ... >>