「ほっ」と。キャンペーン

『リリィ、はちみつ色の夏』(スー・モンク・キッド著、小川高義訳、世界文化社)


c0077412_11552360.jpg1964年の夏、リリィは14歳でサウスカロライナ州のシルヴァンという小さな町に住んでいた。家族は、桃の農園を経営している父親のT・レイ(ダディと呼べるような親ではなかった)と家政婦のロザリン(桃農園で働いていた黒人の大女)で、母親はリリィが4歳のときに死んでいた。リリィが母親について持っている最初にして唯一の記憶は、母親の死んだ日のこと――母親が荷物をまとめていたこと、父親と言い争っていた母親が棚の上から拳銃をとったこと、その拳銃が床に落ちたのをリリィが拾ったこと、その瞬間に銃声が聞こえて、母親が倒れたこと――だった。12歳になったある日、リリィは母親の遺品を見つけた。それを農園の秘密の場所に隠して、ときどき取りだして眺めた。恋しい母親に、性格の悪いT・レイとの生活がいかに悲惨かを訴えたかった。
ある日、リリィの部屋に蜜蜂がやってきた。夜は何匹もの蜂が寝室を飛び回る音が聞こえた。ただ風を切って飛びたいから飛んでいる。そう思うとリリィの心臓は張り裂けそうになった。T・レイに蜂を見せようとしたときには蜂は現れず、嘘をついたと思われてT・レイを怒らせてしまう。T・レイに見せるために、蜂を瓶に閉じこめてみた。数日後に瓶の蓋を開いたが、蜂はなかなか外に飛び出さなかった。
7月2日、合衆国大統領は公民権法を発行させるべく署名した。7月4日、ロザリンが選挙権の登録をするために町に出かけるというので、リリィもいっしょに行く。リリィが懸念していたとおり、ロザリンは白人の若者たちに絡まれた挙げ句に留置所にぶち込まれてしまう。リリィもいっしょに留置されたが、迎えに来たT・レイに連れ戻される。怒りに燃えてリリィに襲いかかろうとするT・レイに、リリィは「母さんが守ってくれるからこわくない」と叫ぶ。しかしそれに対してT・レイは冷笑しながら言い放った。「あの女はおまえを捨てて出て行ったのだ」と。リリィはその日、初めて天の声を聞く。――リリィ、おまえの瓶の蓋は開いている。
こうしてリリィは家を飛び出し、留置所で暴力を振るわれて入院していたロザリンを病院から脱出させる。二人は、ヒッチハイクをしてたどり着いた町で、母親の遺品の一つである「黒いマリア」の商標にめぐり逢い、その商標の蜂蜜を製造している黒人姉妹のところに泊めてもらうことになる。姉妹の長女で心理カウンセラーのようなオーガストの導きで、リリィは「母親は自分を捨てたのか」という恐ろしい疑問に立ち向かっていく。
ひとりの少女の成長物語であると同時に、公民権運動の盛んだった時代、つまり黒人差別がかえって鮮烈になった時代に、少女リリィが天衣無縫の黒人女性ロザリンとともにたどった数奇な冒険の物語としても読める。(2011.12.22読了)

☆『アラバマ物語』のような深刻な展開にはならずにほっとしました。というか、何もかもできすぎていて、笑っちゃうほどです。リリィはものずごく優秀だし、ロザリンはどっしりしていてしかもかわいいし、オーガスト、ジューン、メイの姉妹は財産も学もあるし、蜂蜜製造所でバイトをしている黒人少年のザックも頭はいいしハンサムだし、T・レイでさえとことん悪い人ではなかった、という具合。ところで、三姉妹は誕生月の名称が名前になっているという設定なのですが、メイと双子の姉妹(故人)がエイプルとなっています。これも都合よく、月をまたがって生まれた、ということなのでしょうかね。
☆ウイリアム・ブレイクの『病めるバラ』が、リリィの母親が下線を引いた詩としてうまく取り込まれています。
[PR]
by nishinayuu | 2012-02-18 11:55 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/17489148
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『浮石寺』(申京淑著、文学思想社) 英M16の正史出版 >>