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『マレーシアの冒険』(ジャン・エシュノーズ著、青木真紀子訳、集英社)


c0077412_10204862.jpgエシュノーズの第3作で、原題はL’Équipée malaise。
30年前のこと、二人の男がニコル・フィシェールに恋をした。ニコルが他の男と結婚するとわかったとき、親友だった二人の男は、人生は終わったと思ってしまい、お互いに疎遠になり、世間からも遠ざかってしまった。だから、結婚早々夫を亡くしたニコルが二人を探したが、むだだった。ひとりはパリの地下に潜ってホームレスになり、もうひとりは遠くマレーシアに旅立ったあとだった。数年後に二人はそれぞれニコルに連絡を取ったが、ニコルはもう彼らはどうでもよくなっていた。
マレーシアに渡ったほうの男は、縁あってゴム園の雇われ経営者になった。すっかり過去を消して変身した彼は、公爵と自称するようになる。もうひとりのシャルルはパリの地下を縦横に動きまわる自由で優雅なホームレスになった。その二人が再び顔を合わせることになったのは、ニコルの口添えもあって、公爵のゴム園乗っ取り計画にシャルルも一枚加わることになったからだ。パリに舞い戻っていろいろ用意を調えた公爵と、公爵の甥のポール、その友人のボブ、そしてシャルルはそろってマレーシアに向かう。海で船員の反乱騒動、ゴム園ではどんぱち騒ぎ、フランスではギャングたちとの抗争などなど、どたばたの冒険譚が展開してゆき、めまぐるしいことこの上ない。二人の男の物語は、2代目の二人、ポールとボブに引き継がれていきそうな気配を残して終わる。
この作品の読みどころは、やたらに細かく、時にはむだとも思える描写である。例えばゴム園労働者たちの野営地は次のようにな具合。

夜の訪れとともにあたりの物音は性質を変えた。ほ乳類の走り回っている気配がすぐそこに聞こえる。昼間なら、五百種類もの対立する鳥類が巨大な討論会を開いているから、ほ乳類の足音はかき消される。渡り鳥も交じっていて、照葉樹林のてっぺん目指して、さかさまのV字隊列を組む。特派員として討論集会の取材に呼ばれた場合もあれば、昼間の鳥の世界のイデオロギーに応じ、外国のスパイとして罵倒される者もいる。夜になると、鳥の群は一息入れて眠りの準備をし、翼の下にある羽毛のクッションをぽんぽんとはたいて、尖った頭を中に潜りこませる。間もなく、梢からの物音は途切れ途切れになり、感嘆符がためらいがちに繰り返され、そのしらけた内容からすると飲んべえの鳥の遅ればせの独り言らしく、憂鬱そうな口げんかが始まることもあるが、それをバックにしてあの夕暮れ時の鳩が、正式レパートリーである最高の名人芸を即興演奏してくれる。

ストーリーは単純なので、とにかくこの執拗で細かい描写を楽しむしかない。もう一つ興味深いのはパリの地下鉄でホームレス生活をする方法で、この作品をしっかり読めばおしゃれで清潔なホームレスになれるかも知れない。(2011.11.30読了)
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by nishinayuu | 2012-02-08 10:21 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-02-10 12:07 x
作家の豊かな想像力と自然の様子がよくわかる描写ですね。
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