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『もうひとりのぼくの殺人』(クレイグ・ライス著、森英俊訳、原書房)


c0077412_10372442.jpg原題はMurder Through The Looking Glass。米国のミステリー作家Craig RiceがMichael Venningのペンネームで書いた作品。
彼(主人公のジェフリー・ブルーノ)は夜をぬって走る列車の談話室の中で眼をさまし、恐怖に襲われる。列車に乗った覚えが全くないのだ。眼を閉じていると列車の振動に合わせて頭の中にメロディーが浮かび、少し落ち着いてくる。メロディーを口ずさんでいると談話室のボーイに「ほかの客の迷惑になっている」と注意される。すると、隣席の男が身を乗り出してきて、「なかなかきれいなメロディーでしたよ」と話しかけてくる。かなり小柄な灰色ずくめの男で、メルヴィル・フェアという名だという。ジェフリーも名前をなのり、名刺を取り出して渡そうとする。と、そこには「ジョン・ブレイク、保険外交員」とあるではないか。財布やポケットを探ると、ジョン・ブレイク名義のクラブの会員証、預金通帳、スーザンという女性からの手紙も見つかる。自分はSF仕立てのホラー小説を書いて生計を立てているジェフリー・ブルーノであるはずだが、はたしてほんとうにそうなのか。とにかく自分のアパートにたどり着けばどうなっているのかわかるだろうと考えた彼は、フィラデルフィアに向かっている列車を降り、待合室でニューヨーク行きの列車を待つ。そのとき、読み捨てられた新聞をふと手にとると、殺人容疑で指名手配中という見出しの下に、ジョン・ブレイクの名と彼自身の顔写真があった。
という具合にジェフリー・ブルーノは、自分が二重人格者で、もうひとりの自分は殺人を犯したのかもしれない、と考えざるを得ない異様な状況に放り出される。ここでジェフリー・ブルーノがとるべき方法は2つ――ひとつは同じアパートに住むモデルのロザリーのすすめに従って警察に行って事情を説明することで、もうひとつはずっと彼の跡を付けてきて「困ったことがあったときには、ご遠慮なく」と言った、この時点では得体の知れない人物であるメルヴィル・フェア氏のところに行くことである。ここで彼が後者を選んだことから、読者はフェア氏が事件を解決する重要人物(おそらく探偵)だろうと推測できるのだ。ジェフリー・ブルーノとジョン・ブレイクの関係も、読者はジェフリー・ブルーノ本人よりもかなり前には推測できるが、それでも終盤までだれることなく、締めくくりも納得でき作品である。
ジェフリー・ブルーノについてはもちろん、ほかの登場人物についてもその都度、生い立ちや回想が詳しく語られている。事件にはなんの関係もなさそうなこれらの記述の中に事件のヒントが埋め込まれていることが、読み終わってみるとわかる。ミステリー作品ではあるが、凄惨な場面も異常な人物も登場しないので、安心して楽しめる。(2011.11.20読了)
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by nishinayuu | 2012-02-05 10:37 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
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Commented by マリーゴールド at 2012-02-10 12:00 x
ヒッチコックの映画の原作なのかしら?そんな雰囲気ですね。
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