『ぼくは行くよ』(ジャン・エシュノーズ著、青木真紀子訳、集英社)


c0077412_10572217.jpgフランスの人気作家(なのだそうです)エシュノーズの八作目の長編小説で、1999年のゴンクール賞を受賞している。
「ぼくは行くよ、お別れだ、とフェレールは言った。」という文で始まる。主人公の美術商のフェリックス・フェレールが妻のシュザンヌと別れて家を出て行く場面である。このあとフェレールはコランタン・セルトン駅から地下鉄に乗ってマドレーヌ駅で降り、恋人の部屋で一晩過ごした翌日、パリの9区にある自分のアトリエに向かう。ここが美術商であるフェレールのその後のねぐらとなる。半年後、フェレールは難破船からイヌイットの古美術を回収するために北極に向かう。
その他の主要登場人物はフェレールの助手(投資顧問・情報提供者)であるドラエ、主治医のフェルドマン、お抱えの画家たち、顧客のレパラーズ、何人もの女性たち、そしてボムガルトネールである。画家や顧客が登場するのは職業柄当然であるが、主治医が登場するのはフェレールが心臓疾患を抱えているからであり、女性たちの数が多いのは、フェレールが美しい女性を見るとものにせずにはいられない男だからだ。最後のボムガルトネールは、フェレールが苦労して持ち帰ったイヌイットの古美術をまんまと横取りしてしまう謎の人物。いきなり登場して窃盗を働き、その後の動向がフェレールの動向と並行して詳しく語られる。だから読者としては、フェレールの商売や女性関係の話を楽しむかたわら、ボムガルトネールが何者なのかを探るというミステリー的な楽しみかたもできる作品なのだ。
それなのにこの集英社の本(2002年3月31日第1刷発行)は、第1章に入る前の「主な登場人物」というページで、ボムガルトネールの正体を明かしてしまっているのだ! このページを見たのが1/2くらい読み進んだところだったので、まだよかったけれど、それでもすご~く損をしたような気がした。筆者がこの人物の正体を明かすのは200ページの本文の179ページ目なのに。この本を作った人の感覚を疑う。
それはともかくとして、物語の最後の場面で、「(一杯だけいただいたら、)ぼくは行くよ」と冒頭と同じことばが繰り返される。おもしろくて、気がきいていて、洒落た作品である。
エシュノーズの作品を読むのはこれで3冊目であるが、3冊ともそれぞれ独自の味わいがあって気に入っている。下に主な作品のリストを挙げておく。
『グリニッジ子午線』(1979)、『チェロキー』(1983)、『マレーシアの冒険』(1986)、『われら三人』(1992)、『一年』(1997)、『ピアノソロ』(2003)、『ラヴェル』(2006)(2011.11.7読了)
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by nishinayuu | 2012-01-21 10:58 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by マリーゴールド at 2012-01-22 00:29 x
「ぼくは行くよ」というなら、どこへ行くんだと聞き返したくなる。新しい冒険の世界への誘いの文句。おもしろそう。
Commented by nishinayuu at 2012-01-22 20:05
『ピアノソロ』『ラヴェル』『ぼくは行くよ』『マレーシアの冒険』と読み継いできました。『ピアノソロ』がいちばん気に入っています。雰囲気がしゃれていて。
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