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『バラの構図』(K.M.ペイトン著、掛川恭子訳、岩波書店)

c0077412_15164846.jpg『フランバーズ屋敷の人びと』などで知られるヤング・アダルト小説の名手ペイトンの代表作といえる作品で、出版は1972年。
9月、ティムと両親は田舎の古い家に引っ越してくる。ティムは前の学年で優秀な成績を収めたが、体調を崩したためしばらく学校をやすむことになっている。ロンドンで広告会社を経営している父は、ティムが有名大学で学んだあとは当然会社を引き継ぐものと思っている。学校でもティムはオクスブリッジ進学の有望株として期待されているが、ティム本人は大好きな美術の道に進みたいという夢を抱いている。何不自由のない生活が保証されている道を選ぶか、何の保証もないが自分がほんとうにしたいことをするか、ティムは自分の将来を決める重大な岐路に立っているのだ。
ある日、ティムの部屋の暖炉から古い缶が出てくる。缶の中には数枚の鉛筆画が入っていた。森の中の古い屋敷、教会、池、少女の肖像画などだった。少女の絵の隅には「ネティ」と書いてあり、屋敷の絵の下の方には「T・R・I 1910年2月17日」とある。この頭文字はなんとティムの名前、ティモシー・リード・イングラムと同じだった。部屋の手入れに来ていた大工からこの家には昔、インスキップという一家が住んでいたことを聞いたティムは、この絵を描いたのはインスキップ家の少年だったのではないかと想像する。絵を見つめているうちに、ティムの頭の中にインスキップ少年の姿がありありと浮かび、「ネティ、ネティ、きれいなネティ」と歌っている声まで聞こえてきた。
その日の午後、母の使いで牧師館に出かけたティムは、墓地の片隅で、すみれ色のバラの陰に、苔むした古い墓を見つける。墓石の消えかけた碑文には「T・R・I 1894年3月―1910年2月18日」とあった。あの絵を描いた翌日に、16歳にもならないうちにこの世を去った少年の墓だった。太陽が消えてしまったような衝撃を受けたティムが、ひざまずいて墓を抱えると、また少年の姿が見えた。
60年前にこの村で生きた、やはり絵が大好きだったトム・インスキップは、貧しさのために働きづめに働き、牧師の娘のメイ嬢が自分を認めてくれていることに慰められ、メイ嬢のいとこのネティのわがままに振り回されながらもネティに淡い憧れを抱いていた。そのトムが16歳を目前にして突然の死を迎え、頭文字だけの小さな墓は教会の片隅で忘れ去られていったが、同じ日に死んだ10頭の猟犬は立派な墓に埋葬され、墓碑に刻まれたそれぞれの名前もまだくっきり読めるのだ。
この物語は、60年前の世界から働きかけるトム・インスキップに導かれるようにティムが自分の生きる道を見つけていく、という自己発見の物語でもあり、牧師館の娘レベッカとティムの気持ちがしだいに通い合っていく、という青春物語でもあり、60年前に何があったのかを探る謎解き物語でもある。ネティの両親はインドにいて、ネティだけイギリス本国の親戚に預けられている、とか、トムの死後、精神的に大人になったネティはのちに従軍看護婦になった、とか、イギリスの児童文学やヤング・アダルトものの定番ともいえる設定が使われているのもおもしろい。(2011.10.24読了)
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by nishinayuu | 2012-01-06 15:16 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by マリーゴールド at 2012-01-07 23:56 x
青春小説はやはり花がありますね。まだ若者の人生が固まらず、夢と可能性を感じるからでしょう。
Commented by nishinayuu at 2012-01-08 00:30
ペイトンの作品が好きで、次から次へと図書館から借りて読んだ時期がありました。この作品は中でも特に気に入って買い求めたものです。よろしければお貸しします。
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