『緑の家』その2


c0077412_959545.jpg前の記事ではこの小説に盛り込まれている五つの物語を整理してみたので、今回は代表的な登場人物の軌跡をたどってみる。
ボニファシア――インディオの娘。修道院に連れてこられ、シスターたちによって「未開人の状態から救い出された」が、新しく連れてこられたインディオの娘を逃がしてやったため、修道院から追い出される。謎の多い女性ラリータの家に匿われているときに、治安警備隊の軍曹リトゥーマに見初められて結婚する。彼の故郷であるピウラのマンガテェリーナで暮らしていたが、彼が事件を起こして投獄されたため、再建後の「緑の家」でラ・セルバティカの名で働くようになる。美人ではないが、緑色の強い光を放つ魅力的な目を持っている。
ラリータ――白人の女性。故郷はイキートスで、その地で日本人フシーアと知りあう。フシーアが町の権力者に追われて隠れ住んでいるときに、子供を産む。このときフシーアの友人のアキリーノが子どもを取り上げてくれたので、子どもにアキリーノの名を付ける。フシーアが病気になり、結婚生活もうまくいかなくなって、フシーアの密輸を手伝っていたニエベスと一緒に逃げ、奥地に隠れ住む。このときボニファシアの世話をし、彼女をリトゥーマと結婚させる。ニエベスが捕まって刑に服している間に、治安警備隊員の通称デブと暮らすようになる。後に、サン・パブロに家を構えた息子のアキリーノに会いに行く。(このとき港で荷担ぎをしている男の顔をのぞき込んで話しかける場面がある。この男にフシーアのことを尋ねたのだろうか、あるいはこの男はフシーア本人だったのだろうか。)
アンセルモ――ある日突然ピウラに現れた放浪の歌手。町外れの砂漠地帯に緑色に塗装した売春宿「緑の家」を建てる。孤児のアントニアに恋をし、彼女を掠うようにして緑の家の塔屋に連れてくる。アントニアが出産直後に死に、緑の家も放火で焼け落ちたあとは、ギターのアレハンドロ、ドラムのボーラスとバンドを組んで酒場などで演奏して暮らす。晩年は目が不自由になり、アントニアの遺児であるラ・チュンガが再建した緑の家で、盲目のハープ弾きとして働く。最後は町中の人びとに惜しまれながら死に、その死は人びとに調和をもたらす。人びとに(そして作者に)愛された男である。
フシーア――日本人。ブラジルで事件を起こして投獄され、脱獄してきた男。アマゾンの奥地に身を潜め、盗賊や密輸をしている。このときに船頭として協力したのがアキリーノやニエベスである。若くて美しかったラリータと結婚していたが、隠れ住むうちにラリータの美貌も衰え、自身も感染症で足がやられて、結婚生活は破綻する。アキリーノに説得されて、ボートで奥地(サン・パブロの近く)の療養所へ向かう。
ニエベス――フシーアやインディオのフムたちの盗賊行為や密輸に、船頭として関わっていた男。ラリータと手に手を取ってフシーアのもとを逃げ出し、長い間隠れ住んでいたが、逃げ回る人生に終止符を打つために刑に服す。後にラリータは、ニエベスが刑期を終えたあとブラジルに渡ったという消息を聞く。もの言いも態度ももの柔らかな男で、この男も作者に愛されている!という印象が残る。

本の帯に、「小説の行き詰まり」「小説の困難」とはおよそ無縁の……これぞ小説!とある。これはモラヴィアのことば――「19世紀小説の墓掘り人」であるプルーストとジョイスによって、小説という石切場は最後に残された岩層まで掘り尽くされ、1930年代以降の小説はもはや小説ではない――を踏まえた惹句であろう。訳者によると、欧米の小説が退潮していく中にあって、逆に豊かな実りを見せているのがラテンアメリカの小説であるという。そのラテンアメリカ作家の一人であるガルバス・リョサは、旺盛な創作活動の傍ら1976年、40歳で国際ペンクラブの会長を務め、1989年には大統領選でフジモリ氏と対決している。(2011.8.8読了)
[PR]
by nishinayuu | 2011-10-27 09:59 | 読書ノート | Trackback | Comments(1)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/17021574
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Commented by マリーゴールド at 2011-11-02 21:36 x
日本にいてこういう話を読むと非現実的な悪夢の連続という感じがしますが、悪夢を生き抜く強い生命力、もっと生きることを肯定する異質な世界が広がっているのでしょう。いつか読んでみたいと思いました。
<< 髪長ひめ 『緑の家』(バルガス・リョサ著... >>