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『緑の家』(バルガス・リョサ著、木村榮一訳、岩波書店)


c0077412_1002532.jpg1936年生まれのペルーの作家で2010年度のノーベル賞受賞者であるバルガス・リョサの代表作。発表は1965年。
上・下2巻からなるこの小説は、40年に及ぶ歳月の間に起こった出来事を綴った五つの物語が絡み合って進行していく。それぞれの物語は細かく裁断され、時系列を無視して並べられている。各断片の中で登場人物たちが交わすことばも、引用符でくくられもせず、改行もないままに続いていく。こうした特異な文体と、登場人物の数の多さのため、始めはいつ、だれが、どこで、何をしているときの話なのかが掴みにくい。それでいて各断片、各人物の印象が鮮烈なので、しだいに時や人物のつながりが見えてくる仕組みになっている。そして最後にすべての断片が一つにつながったとき、読者はひとつの長い旅を終えたような満足感を味わうことになる。
五つの物語を、舞台となる場所と登場人物とともに整理してみると次のようになる。
①アンデスの東側に位置するアマゾン源流の密林地方にあるサンタ・マリーア・デ・ニエバの町を舞台にした物語。登場するのは修道院のシスターたちと治安警備隊員、そしてインディオの娘ボニファシア。治安警備隊員のリトゥーマ軍曹は仲間のデブ、チビ、金髪、クロたちと一緒に、密林に住むインディオの集落を襲って少女たちを捕らえてくる。修道院のシスターたちは少女たちを未開状態から救うためにキリスト教教育を施す。そうした少女たちの先輩格であるボニファシアは、シスターたちに感謝しながらも、新しく連れてこられた子どもたちの怖れとおののきを見過ごすことができない。
②アンデス山脈の西側に位置し、細かい砂が降り注ぐピウラの町と、町外れの砂漠地帯を舞台とする物語。登場するのは放浪の歌手アンセルモ、孤児のアントニア、洗濯女のファナ・バウラ、ガルシーア神父など。町に落ち着いたアンセルモは、やがて町外れに売春宿「緑の家」を建てる。町にはアントニアという目も見えず口もきけない孤児の少女がいて、洗濯女のファナ・バウラが世話をしていたが、彼女に恋をしたアンセルモは、彼女をこっそりと「緑の家」の塔屋に連れてきて一緒に暮らす。しかしアントニアは出産直後に死んでしまい、緑の家はガルシーア神父に唆された町の人びとに放火されて消失してしまう。
③サン・パブロの療養所へ向かってマラニョン側を下るボートの中で、日本人のフシーアと友人の老船頭アキリーノが交わすことばから浮かび上がる物語。フシーアの盗賊、密輸商人としての経歴やラリータとの結婚生活などが明らかにされると同時に、他の物語を補足していく。
④ペルー・アマゾンにある大きな町イキートスを舞台とする物語。行政官フリオ・レアテギは、陰ではゴム商人ペドロ・エスカビーノを使ってゴム採取に携わるインディオを搾取している。密輸にも関わっていて、一時彼のもとで働いていたフシーアの命を狙っている。ゴム商人と直接取引をしようとしたインディオの部族長フムを痛めつけた黒幕でもある。
⑤ピウラのマンガチェリーア地区を舞台とする物語。登場するのはリトゥーマとレオン兄弟、ホセフィーノらの「番長」たち。ホセフィーノはリトゥーマが服役している間にラ・セルバティカ(ボニファシア)といい仲になっていた。ほかには「緑の家」のラ・チュンガと女たち、名料理人でレストランを経営するメルセデス、など。(2011.8.6読了)

☆降り続ける砂粒、蚊の襲撃、殺しと暴力、そして圧倒的な暑熱が全編を覆っています。これに比べれば日本の酷暑などはどうってことはないと思えてくるので、真夏の消夏法としてお勧めです(!?)。大学1年の夏休みにDoris LessingのThe Grass Is Singingを読んだときは、あまりの暑さに息が詰まりそうになりましたが、今回はそんなことはありませんでした。体力がついたのか感性が鈍ったのか、定かではありませんが。
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by nishinayuu | 2011-10-24 10:00 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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