『失われた時を求めて 8』(マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳、集英社)


c0077412_1011749.jpg「ソドムトゴモラ」Ⅱの第2章の続きと、第3章、第4章が収められた巻である。
この巻の語り手は母親とバルベックに滞在しているが、物語の大半はラ・ラスプリエール荘とそこへ行く軽便鉄道が舞台になっている。軽便鉄道は、バルベック海岸駅→トゥータンヴィル→エプルヴィル→モンマルタン=シュール=メール→パルヴィユ=ラ=バンガール→アンカルヴィル→サン=フリシュー→ドンシェール→グランクール→アランブーヴィル→サン=ピエール=デ=ジフ→メーヌヴィル→レンヌヴィル→サン=マルス=ル=ヴィユーという経路でドゥーヴィル=フェテルヌに至る。そこからヴェルデュラン夫人の滞在するラ・ラスプリエール荘までは夫人の差し回した馬車で行くことになる。
語り手は途中のドンシェール駅にサン=ルーを呼び出して会うが、アルベルチーヌがサン=ルーに興味を持ったため嫉妬に苦しむ。またこの駅ではシャルリュス氏がたまたま見かけたモレル(語り手の大叔父に仕えていた人の息子で、新進のヴァイオリニスト)に夢中になり、モレルといっしょにヴェルデュラン家のサロンに通うことになる。さらに途中駅ではヴェルデュラン家の信者と「羊の群れ」が乗り込んで来る。彫刻家のスキー、今や高い地位に昇った医師のコタール、ソルボンヌの教授であるブリショ、世間から遠ざけられているシェルバトフ大公夫人、そしてその他大勢が一団となってヴェルデュラン家に吸い込まれていくのである。この頃ヴェルデュラン家は社交界に向かっておずおずとした動きを開始していたのだが、社交界のほうでもヴェルデュラン家に近づこうと用意万端を整えていたのだった。今やヴェルデュラン家は音楽の殿堂とみなされており、芸術家の溢れるサロンでもあった。そんな中に入り込んだシャルリュス氏は、性倒錯の化身でしかなかった。そこでは彼の社交界での高い地位や知性はまるで知られていなかったのだ。
この巻の主題はソドムの権化と化したシャルリュス氏の姿態と言動と、ゴモラの世界に入り込んでいる疑いのあるアルベルチーヌに対する語り手の複雑な思いと行動である。この主題を中心にして、田舎貴族のカンブルメール夫妻の教養がいかにお粗末か、従僕が外見を取り繕っても朋輩の召使いたちの目はごまかせないというエピソード、睡眠についての考察、シャルリュス氏の展開する「ユダヤ人の奇妙な冒涜趣味」説、などなどの興味深い話題が散りばめられている。中でも特に多くの紙幅が割かれているのがブリショによる地名や植物名の語源談義である。もしかしたらプルーストは自分の膨大な探求結果を披露するためにブリショという人物を登場させたのではないだろうか。(2011.7.14読了)
[PR]
by nishinayuu | 2011-10-06 10:11 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/16938598
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『もう一人のメンデルスゾーン』... 『マルコヴァルドさんの四季』(... >>