「ほっ」と。キャンペーン

『失われた時を求めて 7』(マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳、集英社)


c0077412_9164994.jpg原作の第4編「ソドムとゴモラ」の前半が収められた巻である。
この巻は語り手が中庭で、ゲルマント公爵夫妻の帰宅を待ち伏せしているところから始まる。ゲルマント大公夫人からカードを受け取った語り手は、それがほんとうに夜会への招待なのかを公爵夫妻に判断してもらおうと思ったのだ。ところがそこで語り手は思いがけない場面を目撃することになる。中庭にたまたま出てきた二人の男、シャルリュス男爵と元チョッキ職人のジュピヤンが、顔を合わせたとたんに「男と女」に変貌したのだ。こうして語り手は、常々男らしさを誇りにしているシャルリュス男爵がソドムの世界に属する人物であり、そこではひとりの女であることを発見する。
ゲルマント大公夫人邸の夜会の場面では、自宅のパーティーへの出席者を確認するためにやってきたサン・トゥーヴェルト公爵夫人、死ぬ前に妻と娘を引き合わせたいというスワンの頼みを拒否するゲルマント公爵夫人、シュルジ夫人の美貌の息子たちに見とれるシャルリュス男爵、売春宿を礼賛するサン・ルーなど、さまざまな人物がさまざまな話題を展開する。ゲルマント大公がドレーフュスの無実を信じるようになり、ドレーフュス支持になったいきさつなども語られる。
続いて語り手にとって二度目のバルベック滞在の場面となり、ここで語り手は祖母の晩年に自分が見せた心ない態度を思い出して苦しみ、祖母の死を改めて悲しむ。その悲しみが徐々におさまると、語り手はアルベルチーヌと再び親密になって、ホテルに呼びつけたり遊びに出かけたりする。そんなある日、アルベルチーヌが女友達のアンドレと踊っているところを見た医師のコタールが、彼女たちは快楽に耽っている、と言ったことから語り手は、アルベルチーヌはゴモラの世界の女かもしれない、という疑いを抱く。

この巻で興味深いのは言葉にまつわるいくつかのエピソードである。なかでもかなりのページを割いて語られているのがバルベックのホテルの支配人による「滑稽な間違い」の数々で、「あなた様にはふさわしくない部屋」と言うべきところを「あなた様にはもったいない部屋」、「勲章をもらった」と言うべきところを「鞭をもらった」と言ったりしている。訳者による註に正・誤のフランス語が示されているが、本文は滑稽さが充分に伝わる日本語訳になっていて、安心して読める。支配人の間違いはかわいげがあるが、このホテルには変なプライドのせいで言葉づかいがおかしいエレベーター係もいて、こちらの方は語り手をいらだたせる存在として描かれている。さらに、語り手がフランソワーズの言葉づかいについて、「発音も正確だし、リエゾンの間違いもないし」と皮肉を浴びせたあと、心の中で次のように言っているのが印象的である。「このような非難は、あまりにばかげたものだった。というのも、私たちが得意になって正確な発音を心がけているフランス語の単語それ自体が、ラテン語やザクセン語をでたらめに発音するゴール人の口によって作られた[リエゾンの間違い]にすぎず、私たちの国語は、他の言語の不完全な発音に他ならないからだ。」(2011.6.13読了)
[PR]
by nishinayuu | 2011-09-11 09:17 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/16837751
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< リクゼンタカタ (特派員メモ ... 『男どき女どき』(向田邦子著、... >>