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『イエメンで鮭釣りを』(ポール・トーディ著、小竹由美子訳、白水社)


c0077412_1732263.jpgイギリス人たちが鮭釣りを楽しむように、イエメンでも人びとが鮭釣りを楽しめるようにしよう、という奇想天外なプロジェクトの顛末と、それに巻き込まれた人びとのどたばたぶりを描いた物語である。プロジェクトの発端となる話を持ちかけたのはイエメンの資産家シャイフ・ムハンマド、プロジェクトを推進するのは不動産売買とコンサルタントを専門とする会社の社員であるハリエット・タルボット、技術面を担当するのは国立水産研究所に所属するアルフレッド・ジョーンズ博士で、この3人を中心に話は展開する。
最初にハリエットからプロジェクトへの協力を求められたとき、アルフレッド(略称フレッド)はそっけなく拒絶する。科学者としては当然のことだ。ところが、上司のデイヴィッド・ザグデンから圧力がかかる。プロジェクトには外務省も首相も関心を示している、と言うのだ。この時点でフレッドは妻のメアリに、あまりに突拍子もない話だし、ザグデンの理不尽な圧力にはがまんがならないから辞表を出そうかと思う、とメールを送る。すると銀行の管理職に向かって邁進中のメアリからは、今でも年収の多い妻におんぶしているのにバカなことを考えるな、と言う返信が来る。結局フレッドは辞表を出しそびれて、ハリエットと会うことになり、さらにはスコットランドにあるシャイフ・ムハンマドの広大な別邸で鮭釣りを楽しむ、という具合に事態が進展していく。シャイフ・ムハンマドの人柄と信念に魅せられたフレッドは、「イエメンで鮭を釣る」ことの可能性はゼロではないと思い始める。
フレッドはプロジェクトに前向きに取り組み、徐々に成果を上げていく。キャリアのために外国に長期滞在するメアリとは意思疎通がうまくいかなくなる一方で、ハリエットへの尊敬と憧れは強まる。フレッドにとっては初めての恋だった。やがて、フレッドがシャイフ・ムハンマドやハリエットともに取り組んだプロジェクトが大詰めを迎え、イギリスの首相を迎えて「イエメンで鮭釣りを」する日がきて……。

この作品は、Eメール、連絡メモ、書簡、日記、尋問、インタビューなどを組み合わせたユニークな形式で綴られている。また、極限まで膨らんだ風船が破裂するような終わり方もユニークである。その破裂によって物も人も吹き飛ばされ、破裂のとばっちりでフレッドを振り回した破廉恥な連中もそれなりの報いを受ける。もちろんフレッドも例外ではないのだが、彼はなぜかひとりだけ、以前よりもちょっと幸せになっているように見える。シャイフ・ムハンマドやハリエットとの交流が彼を人間的に成長させたのだ。それに、どうやらメアリもフレッドの方に顔を向け始めている。
「訳者あとがき」によると2007年に出版された本作品は同年、コミカルな小説を対象とするボランジェ・エヴリマン・ウッドハウス賞を受賞している。 『スパイたちの夏』も過去の受賞作の一つだそうだ。(2011.5.31読了)
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by nishinayuu | 2011-09-02 17:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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