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『世界でたったひとりの子』(アレックス・シアラー著、金原瑞人訳、竹書房)


c0077412_10341272.jpg読書会「かんあおい」2011年8月の課題図書。原題はThe Hunted。
主人公はタリンという名の少年。保護者のディートは、トランプの賭で金持ちから手に入れたタリンを、子どもが必要な人に貸し出して暮らしている。ここは子どもというものがいなくなった世界なのだ。科学の進歩によって老化防止剤が開発された結果、高齢化が進み、平均寿命は延びたが、そのせいで新しいウイルスが生まれた。生殖能力を破壊するこのウイルスが老化防止剤を飲んでいない人にも感染して、世界から子どもが消えていった。つまり、ある人びとが長寿を手に入れた代わりに、ある人びとは生まれることさえできなくなったのだ。
老化防止剤を飲んだ人は外見はいつまでも若いままだが内部からの腐敗は止められないので、120歳くらいになると身体の活動が停止して死ぬ。ところが、内部からの腐敗を止めるPPインプラントという方法があって、これを受けるといつまでも大人にならない。たとえばかわいい踊り子のミス・ヴァージニアは、55歳なのに11歳に見える。世間で見かける子どもはみんなこのPPインプラントを受けた子どもであって、子どもの顔と身体を持っているが、その心と魂はこの世には存在したことのない新しい生物のものなのだ。PPインプラントは違法なのだが、タリンが成長していって商売道具として使えなくなるのを心配したディートは、タリンにPPを受けさせようと画策する。それを知ったタリンはディートのもとから逃げ出す。PPの子どもの心の悲しみを知っているからだ。しかしタリンにはどこにも行く当てはない。心の片隅にかすかな記憶――女の人の匂い、男の人の匂い、麦畑と鳥のさえずり、犬の吠える声――があるのだが。
ひとりぼっちの少年が自分を取り囲む敵意に満ちた世界を彷徨い、逃げまどい、疲れ果てた末に、ついに記憶のなかの光景にたどり着くまでの物語。的確な描写と緻密な構成、緊迫感あふれる展開で飽きさせないし、最後には感動が待っているが、全編に充満している暗い重苦しさが読後にも残る。落ち込んでいるときには手にしてはいけない作品である。(2011.5.24読了)
☆ディートがタリンを部屋に閉じこめてPPインプラントを施術する医者を呼びに行っている間に、タリンは苦心惨憺のうえ、やっとのことで部屋から逃げ出します。その場面のあとに、タリンが「家を出て4分と15秒きっかりたったとき、ディートと女と医者が……」とあるのですが、この「きっかり」がひっかかります。「きっかり」の位置のせいでしょうか、あるいは半端な時刻と「きっかり」の組み合わせのせいでしょうか。
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by nishinayuu | 2011-08-28 10:34 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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