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『まほろ駅前 多田便利軒』(三浦しをん著、文藝春秋)


c0077412_933895.jpg著者は『月魚』で、古書の売買という一風変わった世界に生きる二人組の青年たちを描いている。さて、この作品に登場するのも二人組の男たちであるが、こちらの二人は青年でもなければ壮年とも言えない、中途半端な年齢の男たちで、その生業は古書売買よりいっそう風変わりな「便利屋」である。「便利屋」というのは掃除や修理、身代わりのお見舞い、猫の死骸の片づけ、庭の草むしり、塾通いの子どもの送迎、バスの間引き運転調査などなど、依頼があればたいていのことは引き受けるという、自由といえば自由だが、収入は不安定で、ストレスもたまる仕事である。そんな便利屋の事務所兼住居が「多田便利軒」である。
「多田便利軒」があるのは「まほろ駅前」であるが、新宿から出て箱根方面に向かう私鉄とJR横浜線の乗換駅であること、東京南部にある広い市であること、都内の人たちはここも東京だと聞くと驚くこと、市内を隣県の名前のついたバスが走っていることなどから、町田市をモデルにしていることがわかる。
ある日、便利屋の多田のところに行天(ぎょうてん)が転がり込んで居着いてしまう。多田にしてみれば迷惑千万な話で、もちろんコンビを組むつもりなどはない。一方、行天のほうも、行き場がないから多田のところにいるだけ、することがないから多田について回っているだけであって、やはりコンビを組むつもりはないのだ。そのように最初はただの「二人の男」だったこの二人が、なりゆきでいっしょに動き回っているうちに、いつのまにか「二人組」になっていくようすが、便利屋の遭遇するさまざまな出来事とともに綴られていく。かつての同級生だった行天に対する多田の鬱屈した思い、多田と行天それぞれの子供にまつわる思い出など、興味深いエピソードも盛り込まれていて、読みでのあるエンターテインメント作品となっている。劇画調のイラスト入りというところが今時の作家らしい。(2011.5.16読了)

☆便利屋の依頼者のひとりが間引き運転を疑っているバス会社は横中(横浜中央交通)となっていますが、このモデルは神奈中ではないかと思います。ただしこれは名称からの推測であって、間引き運転云々からの推測ではありません。
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by nishinayuu | 2011-08-12 09:33 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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