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『あの年の春は早くきた』(ネストリンガー著、上田真而子訳、岩波書店)


c0077412_10135177.jpg2月に読んだ『ひとりだけのコンサート』にこの作品への言及があり、タイトルに惹かれて手にとってみた。8歳の少女を主人公にした物語で、タイトルにある「あの年」とは1945年、すなわちオーストリアがヒトラー率いるナチス・ドイツから解放された年のことである。
「1945年の春は早くきた。暖房用の木も石炭も底をついていたから、ありがたかった。けれどももっとありがたかったのは、3月に父が前線から帰ってきたことだ。」負傷した父がウイーン市内の野戦病院に転院してきて、そこから毎日、帰宅許可証をもらって家にやってくるようになる。ある日、クリステルたちが住んでいたアパートが爆撃にあって、同じアパートの祖父母の住んでいた部屋は辛うじて残ったが、クリステルたちは家を失った。ちょうどそこへ、ウイーン郊外のノイワルトエッグに別荘を持つフォン・ブラウン夫人から、別荘番として住み込むように、という話が来る。ソ連軍がウイーンに迫り、アメリカ軍の爆撃が激しくなった今、親ナチの夫人は難を避けてチロルの農場に移ることにしたのだ。こうして一家は、アパートに残るという祖父母をおいて、別荘で暮らすことになる。別荘への移動の日、父が家族に合流する。病院がドイツに撤収することになり、そのどさくさに紛れて脱走してきたのだ。それで父は別荘に隠れて暮らし、母は食料や生活用品の調達のために遠くまで出かける日が始まる。
やがて別荘に新しい住人が加わる。フォン・ブラウン夫人の二人の孫・ヒルデガルトとゲーラルト、その母親である若いフォン・ブラウン夫人である。クリステルと姉はたちまち子弟と意気投合し、となりの別荘の上品ぶった女の子・エンゲルをいじめたり、近所の無人の別荘に忍び込んで貯蔵されていた食料をごっそり持ち帰ってきたりする。母と若いフォン・ブラウン夫人も子どもたちの持ち込んだ食料を喜ぶ。「これでいきのびられる」と。
そしてついに、みんなが怖れていた日が来る。ソ連軍が侵攻してきたのだ。ドイツ軍に見つかったときのために隠してあった父の軍服は、忽ち危険なものとなり、母はそれをかまどに突っ込んで燃やす。その他いろいろ面倒なことはあったが、そのうち別荘にソ連軍の大隊長が住むことになって、一家はひとまず安全になる。酒乱の曹長のような危険人物もいたが、彼らはおおむね友好的だったからだ。クリステルは炊事兵のコーンと大の仲良しになり、母は婦人憲兵将校のルドミラと友だちになり、若いフォン・ブラウン夫人は大隊長と親しくなり(これは息子のゲーラルトが嫌悪感を抱く類のものだったが)、はじめは隠れていた父までが将校のイワンと飲み友だちになったのだった。
この作品は作者の子どもの時の体験が下地になっているという。1945年の春から夏にかけての出来事を、そのまっただ中にいた子どもの視点から生き生きと描いた物語である。(2011.4.29読了)
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by nishinayuu | 2011-07-25 10:13 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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