「ほっ」と。キャンペーン

『マイホーム』(カリ・ホタカイネン著、末延弘子訳、新評論)


c0077412_2119472.jpg2002年に発表されたフィンランド文学作品で、原題はJUOKSUHAUDANTIE。
「家庭戦線主夫」であるマッティ・ヴィルタネンは、仕事を持つ妻のために家事全般をこなし、幼い娘の相手もする、模範的な夫を自負していたが、妻のヘレナはそんな夫を鬱陶しく思うようになっていた。そして、ある時そんな思いを口にしてしまったヘレナを、マッティは思わず殴ってしまう。このたった一度の暴力が、離れかけていたヘレナの心を決定的に引き離すことになった。ヘレナは娘のシニを連れてアパートを出て行き、マッティに離婚を迫る。それは、ふたりを心から愛しているマッティにはとうてい受け入れられないことだった。家族を取り戻すにはどうしたらいいか、と悩みながらジョギングしていた彼の目に一戸建ての木造住宅が飛び込んでくる。こんな家が欲しい、と思った彼は、そんな家に住みたいというのが実はヘレナの夢だったことに思い至る。アパートではない、一戸建ての木造住宅を手に入れればまたヘレナとシニと三人で暮らせる、という思いに囚われたマッティは、しだいに常軌を逸した行動に走るようになり……。
家族を取り戻したい一心から精神のバランスを崩していく哀れな男の物語であるが、現代のフィンランド、特にヘルシンキの住宅事情や、ヘルシンキの普通の人びとの暮らしぶりが描かれていて、実に興味深く、読み応えのある作品となっている。また、章ごとに語り手が交代して、登場人物や事件がさまざまな角度から描かれるばかりでなく、最終章は何時何分という時間系列で次々に視点が変わっていく形式になっており、ミステリーの味も利かせた心憎い構成である。
ただし、残念なことがある。フィンランド文学という珍しい分野の、魅力的な作品なのに、そして翻訳も全体としてはよいできばえなのに、なぜこんなに校正ミスが多いのだろうか。特に終わりのほうは助詞の間違いをはじめいろいろなミスが目について参った。それから、これは訳者が若いせいかとも思うが、「ひざ掛け毛布を肩にかけて、マルッタの残り香を匂った」というような表現に出合うと、びっくりして思考が停止してしまう。(2011.4.26読了)
[PR]
by nishinayuu | 2011-07-19 21:19 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/16619832
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『鷺と雪』(北村薫著、文藝春秋) 韓国語覚え書き――「歴史ドラマ... >>