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『凱旋門』(E.M.レマルク著、山西英一郎訳、新潮社)


『凱旋門』(E.M.レマルク著、山西英一郎訳、新潮社)_c0077412_8545192.jpgこの作品は生涯で7つの長編しか書いていない寡作の大作家・レマルクの第5作で、発表は1946年。「女は、斜いに、ラヴィックの方へ近づいてきた。早足にあるいていたが、妙なふうによろめいていた。ラヴィックは、女がすぐそばまでやってきたとき、はじめて女に気づいた。見ると、頬骨の高い、目と目の間の広い、蒼ざめた顔をしていた」という印象的な文で始まり、「トラックはワグラム通りを走って、エトワールの広場へ抜けた。どこにも灯りはなかった。広場は黒闇々としていた。あんまり暗くて、凱旋門さえ見えなかった」という暗示的な文で終わっている。
第2次世界大戦勃発前夜のパリには、ナチスの弾圧から辛うじて逃れてきた旅券を持たない人びとが吹き寄せられていた。ベルリンの有名病院で外科部長をしていたラヴィックもそのひとりで、裕福で無能な病院長に代わって患者が麻酔で眠っている間に手術をすませ、わずかな報酬を受け取っている。同じ運命の避難民たちと安ホテルに身を潜ませ、「生きのびることがすべて」という生活をしている彼の望みはただ一つ、かつて彼と愛人のシビルを拷問し、シビルを虐殺したゲシュタポのハーケに復讐することである。
そんなラヴィックが冒頭の文にあるような出会いをした女・ジョアンを愛するようになる。何もかも失い、明日への希望もない男に訪れた「輝かしい春」である。しかしラヴィックが、ある事故がもとで国外追放になって3ヶ月後にパリに戻ったとき、ジョアンは他の男の世話になっていた。ジョアンはラヴィックを愛しながらもその愛を貫くことができない、精神的に脆い女だったのだ。
このあと物語は、ラヴィックが長い間探し求めていたハーケがパリに姿を現したことから物語は緊迫した復讐劇に転じ、さらにジョアンとの思いがけない別れへと展開していき、ラヴィックが大勢の避難民たちと共にパリ警察のトラックでパリから連れ出されるところで終わる。(2011.3.29読了)

☆10年ほど前パリに行ったとき、ラヴィックとジョアンが出会ったアルマ橋を「はすかいに」歩いてみました。すると、向かい側から歩いてきたラヴィックの年頃の男性が、にこにこと嬉しそうな顔でこちらを見ながら通っていったのでした。あの男性もきっと『凱旋門』の愛読者だったのでしょう。
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by nishinayuu | 2011-06-28 08:55 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

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