『スリッピングダウン・ライフ』(アン・タイラー著、中野恵津子訳、文藝春秋)


c0077412_027111.jpg4冊目のアン・タイラー。1970年に発表された、3冊目の長編小説である。
アン・タイラーの主人公はちょっと風変わりな人間が多いが、この作品の主人公もやはり風変わりな女の子である。名前はエヴィー・デッカー。「ずんぐりと横に広い体型」で、顔も美人とはほど遠く、親友のヴァイオレットを除けば友だちは一人もいない、という17歳の高校生だ。この小太りのエヴィーがある日、大太りのヴァイオレットに誘われて街のロック・コンサートに行って、バートラム・ケイシー、通称ドラムというギタリスト兼ヴォーカルのロッカーに出会う。ドラムに魅せられたエヴィーは、彼の注意を引くために爪切りバサミを使って「ケイシー」という文字を自分の額に刻みつける。血だらけになってトイレから出てきたエヴィーは、もちろんみんなの注目の的になり、マスコミにも取り上げられる。これをきっかけにエヴィーは、ケイシーの音楽活動を宣伝する役回りを担うことになり、紆余曲折を経てついにはケイシーと結婚するのだが……。
家でだらだらと過ごしていたと思ったら、いきなり突飛な行動にはしり、それがどんどんエスカレートしていくエヴィー、そんなエヴィーのよき理解者でいつもそばにいるヴァイオレット、エヴィーに振り回されるのを負担に思っているうちにエヴィーを頼りにするようになっていくドラム、エヴィーがどんなに突飛なことをしても受け入れようとするひたすら優しい父親。みんな相当に風変わりだけれども、どこにでもいそうな感じの登場人物たちなのだ。母親は知らずに育ったが、おっとりした高校教師の父親と静かに暮らしてきた成績のよい高校生(と、後半になって一言言及されている)エヴィーが、ロック・コンサートに出かけてから一年のうちに、人生の荒波に立ち向かう覚悟を決めた逞しい女性に変身していく物語である。(2011.3.6読了)
☆作者のコワザがきいていると感じたところ――(ドラムのことが心配でなかなか眠れないエヴィーが、ようやく眠りについてみる夢は(中略)梯子をのぼっていき、自分の重みで梯子が後ろに倒れそうになるのに決して倒れない夢とかだった。[いかにも身体の重い人が見そうな夢ではありませんか]
☆コンピューターも校正者もチェックし損なったのか、あるいはもうこれは容認された表現なのか、とちょっと引っかかったところ――あちこちでグループをつくって、踊るというよりは擦り足で動いたり、椅子の肘や背にもたれて話しながら指を鳴らしたり頭を振っている。[指を鳴らしたり頭を振ったりしている、の方が落ち着くと思うのですが]
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by nishinayuu | 2011-06-05 00:27 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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