『冷たい肌』(アルベール・サンチェス・ピニョル著、田澤耕訳、中央公論新社)


c0077412_1142628.jpg南半球の高緯度の海に浮かぶ孤島に気象観測官として赴任した[私]の1年数ヶ月の物語。
島は端から端までがせいぜい1キロ半ほどで、L字型をしており、南端、すなわちL字の角の高台に気象観測官の住居、北端の小高い丘の上に灯台が建っている。[私]は通常の航路を大きく外れたこの島で、風向きと風の強さを記録するという単調な日々を過ごし、1年後に交代要員を乗せてくる船で帰ることになっている。すなわち、[私]を乗せてきた船は前任者を連れ帰る船でもあるのだが、肝腎の前任者の姿は島のどこにも見あたらない。灯台に行ってみると、そこには全身毛むくじゃらの大男、バティス・カフォーがいたが、前任者のことを尋ねると[その質問には答えられない]と言うばかり。このまま船に戻ろう、と勧める船長に逆らって、[私]がこの島に残ることを選択したのは、地球を半周してやっと目的地に着いたとたんに引き返すなんてばかばかしい、と思えたからだった。船が[私]を島に残して去っていったその晩、[私]がとんでもない選択をしたことが判明する。気象観測官の宿舎が海から押し寄せる怪獣の大群に襲撃されたのだ。
グロテスクな怪獣との格闘、[私]と灯台に住む男がやむを得ず張ることになった共同戦線、怪獣の子どもたちとの出会いがもたらした[私]の気持ちの変化、それに伴う怪獣側の微妙な変化――。蛙のような外観の不気味な怪獣が登場したときは、生理的な嫌悪感を覚えて読むのをやめたくなったが、それでもどうしても先を読まずにはいられない、ミステリーを読むような魅力で迫ってくる作品である。結末は予想できるが、だからといって衝撃の度合いが減じることのない戦慄的な結末である。「冷たい肌」は「黒い肌」とか「黄色い肌」に置き換えることもできる、強いメッセージを内包した作品である。
訳者のあとがきによると――著者は1965年生まれの文化人類学者で、この作品が初めての長編小説。フランコの独裁政権の下で約40年にわたって使用を禁止されていたカタルーニャ語を生き返らせるためにカタルーニャ語で創作活動をする作家の一人として、今後の活躍が期待されている。(2011.2.28読了)
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by nishinayuu | 2011-05-29 11:04 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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