『昏き目の暗殺者』(マーガレット・アトウッド著、鴻巣友希子訳、早川書房)


c0077412_10203872.jpg2000年にブッカー賞、2001年にダシール・ハメット賞を受賞した作品で、原題はThe Blind Assassin。作者は現在カナダで最も注目されている作家の一人、翻訳者は現在日本で最も活躍している翻訳家の一人、とくれば、読まずにすますわけにはいかない。
15部からなる物語の冒頭は「橋」というタイトルの短い章で、「戦争が終結して十日後のこと、妹のローラの運転する車が橋から墜落した」という文で始まる。続いて「わたし」(すなわちローラの姉で、後の章でアイリスという名だとわかる)、リチャード、アレックス、リーニー(姉妹の母親代わりだった家政婦)などの名があげられ、不義、父とその悲しい末路、ひと束の学習帳などへの言及がある。次のやはりごく短い章は1945年5月26日付の「トロント・スター」新聞の記事。ここでミス・チェイスすなわちローラ(25歳)が即死したこと、「わたし」がミセス・リチャード・グリフェンであること、リチャードが大工場主であることなどが明かされる。3番目の章は「昏き目の暗殺者」というタイトルの物語のプロローグの形をとっており、作者はローラ・チェイス、発表は1947年ということになっている。ここでは一枚の写真のことが語られているが、語り手がだれなのか、写真の中の人物がだれなのかはまだ明らかにされていない。この章はほぼそっくりそのまま、第15部で「昏き目の暗殺者」のエピローグとして使われている。
第2部からは「昏き目の暗殺者」というローラの死後に発表されてローラを一躍スターに押し上げた作品と、「わたし」が語るチェイス一族の年代記およびグリフェン一族の一代記、そしてところどころに差し込まれる新聞記事、という形で物語は展開していく。さらに「昏き目の暗殺者」の部分では、世間に隠れて逢い引きする男と女が紡ぐ物語と、男が女に語って聞かせるザイクロン星という異世界の物語が展開していく、という複雑な構造になっている。
「昏き目の暗殺者」の逢い引きする男女は何者なのか、異世界の物語に登場する[昏き目の暗殺者]である男と、声を奪われた女とは何を意味するのか、そもそも「昏き目の暗殺者」の作者はほんとうにローラなのか、「わたし」が語りかけている「あなた」とはだれなのか――読む者にさまざまな謎を突きつけながら怒濤のように迫ってくる、圧倒的な迫力と魅力を持った作品である。(2011.2.15読了)
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by nishinayuu | 2011-05-23 10:20 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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