『輝く日の宮』(丸谷才一著、講談社)


c0077412_10361539.jpg若く美しい国文学者・杉安佐子を主人公に据え、日本文学を中心に、日本語文法、古今東西の文学や思想、社会史・世俗史、学界人士の生態、学者一族の生活、などなど広範囲の話題を取り上げた、上下2部からなる大作。もちろんタイトルの「輝く日の宮」論が大きな比重を占めているが、その論に入る前にまず、杉安佐子の学会での発表という形で『芭蕉はなぜ東北へ行ったのか』という「奥の細道論」が展開される。西行の五百年忌やら御霊信仰に絡めた興味深い内容だが、この調子で「輝く日の宮」にたどり着けるのか、とハラハラさせられる。が、そんな心配は無用である。中盤から本格的に源氏物語論に入り、各巻の成立順序、物語の本流と傍流の関係、「輝く日の宮」の巻にまつわるさまざまな学説とそれらの考証など、息をつかせぬ展開となる。そうして出された結論は、「輝く日の宮」の巻は確かに存在していた、というもの。そこには六条御息所と光源氏のなれそめや藤壷と光源氏の最初の逢瀬などが描かれていたが、紫式部の筆が未熟だったため、パトロンであった藤原道長が手許に押さえておいて流布を防ぎ、後に紫式部の同意を得て廃棄した、ということになっている。
というわけでこの作品は、博覧強記の作者による蘊蓄小説なのである。そして同時に、今昔の恋愛模様に通じているらしい作者による恋愛小説でもある。光源氏と女性たち、紫式部と藤原道長という平安時代の恋愛だけでなく、杉安佐子と長良豊、という現代の恋愛にもかなりの紙幅が割かれているのだが、これが実に自由奔放で、しかもやはり奔放に徹しきれなかったりして、なんだか笑える。
最初の章(ナンバーは0!)に杉安佐子が中学3年の時に書いたという恋愛小説を配し、最終章(ナンバーは7)に同じく杉安佐子による「輝く日の宮」を配した構成も見事。若く、美しく、賢い女性の成長の跡が読み取れる。(2011.2.8読了)
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by nishinayuu | 2011-05-20 10:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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