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『フィオナの海』(ロザリー・K・フライ著、矢川澄子訳、集英社)


c0077412_10113923.jpg1911年にカナダで生まれたイギリス人作家である著者が1957年に発表した作品で、原題はChild of the Western Isles。 
スコットランドの北西部にある群島に小さな蒸気船が向かうところから物語は始まる。舳先には、10歳という年の割には小さな少女、フィオナ・マッコンヴィルが身じろぎもせずに前を見つめて立っている。少女は群島の一つに住む祖父母を訪問するところなのだが、彼女は今、ある決意を持って島に向かっているのだった。それは4年前に家族が街に移り住むまで暮らしていたロン・モル島に行ってみること、そして弟のジェイミーを見つけることだった。フィオナも他の家族も赤毛なのに、ただ一人真っ黒な髪をしたジェイミーは、フィオナの専属の遊び友だちだった。木のゆりかごの中に坐ったジェイミーに、フィオナは知る限りの遊びを教え、新しい遊びを考えてやった。台所の床に貝殻のままごと道具を広げてパーティーもした。そんな弟が、みんなで街へ移る日に、ゆりかごに乗ったまま沖に流されて消えてしまったのだ。それ以来、みんなジェイミーの話をしなくなったがフィオナだけは、ジェイミーはきっと生きている、と信じていたのだった。
この作品はケルトの民間伝承を採り入れた幻想的な物語であるが、幻想的な部分と現実的な部分がうまく融合していて、違和感なく読める。少女が弟に寄せる一途な思いに胸が詰まり、また、赤ん坊だったジェイミーがセルキー(アザラシ族)に見守られながら幼児になっている姿には素直に感動させられる。はらだ たけひで による挿絵と、訳者・矢川澄子による「薄命のなかの少女」という随想のような解説文が作品をいっそう魅力的にしており、本文の文字も全体の作りも美しくできあがっている。(2011.1.30読了)
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by nishinayuu | 2011-05-05 10:11 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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