『骨狩りのとき』(エドウィージ・ダンティカ著、佐川愛子訳、作品社)


c0077412_10351650.jpg愛するものたちへ、別れのとき』で、実の父と育ての父という二人の父を持つハイチ出身の女性を主人公に、自伝的な家族の物語を書いた著者が、ここでは1937年に起こったドミニカ共和国における「ハイチ人移民大虐殺」を生き延びた女性を主人公に、祖国ハイチの現代史というテーマに取り組んでいる。
アマベルの両親はハイチからドミニカに渡ろうとして、国境の川で溺れ死んだ。ドミニカの富裕層の家に拾われたアマベルは、その家の同年配の少女バレンシアをお嬢様と呼びながら育ち、彼女が軍人のピコと結婚してからはセニョーラ(奥様)と呼んでいる。ある日アマベルはバレンシアが男女の双子を出産するのを手伝った。医者のハビエル先生が間に合わなかったからだ。家からの知らせを聞いたピコが急がせたせいで、ピコと父親のパピが乗った車が、途中でハイチ人の若者を跳ねとばし、若者は谷に落ちて死んでしまう。人を跳ねたと気付いたときにパピは一瞬ためらったが、ピコのはやる気持ちにあおられてそのまま通り過ぎてしまう。こうして人一人を見殺しにして駆けつけた家で、ピコはスペイン系の顔立ちをした男児に大喜びしたのだったが、男児は間もなく急死してしまう。
彼と並んで歩いていて危うく難を免れたセバスチアンはアマベルの恋人だ。死んだ若者ジョエルも、その父親のコンゴも、セバスチアンも、事故のときいっしょにいたもう一人の若者のイーヴスも、みんなアマベルと同じハイチ人で、貧しいハイチから豊かなドミニカに流れてきたサトウキビ労働者たちである。ドミニカとハイチの歴史的、経済的な事情から、ハイチ移民はドミニカで反感と蔑視の対象となっていたが、その反ハイチ人の気運が急速に高まっていることを察知したハイチ人たちは国外脱出を図る。アマベルも、バレンシアに別れも告げずに邸をあとにして、セバスチアンと落ち合うためにハビエル先生の待つ教会へ急ぐ。しかしアマベルはセバスチアンに会うことはできなかった。教会が軍に急襲され、集まっていた人びとはみんなどこかに連れ去られてしまっていた。それは時の権力者、トルヒーヨの主導する民族浄化のための大虐殺の始まりだった。(2011.1.24読了)

☆『大虐殺』の記憶を持ち、西半球の最貧国として苦しんできたハイチが、2010年1月12日の大地震によってまた新たな困難を抱えることになるとは。大勢のアマベルたちに一日も早く平穏な日々が訪れることを願わずにはいられません。
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by nishinayuu | 2011-05-02 10:35 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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