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『天使がくれた時計』(リチャード・P・エヴァンズ著、笹野洋子訳、講談社)


『天使がくれた時計』(リチャード・P・エヴァンズ著、笹野洋子訳、講談社)_c0077412_1054352.jpgソルトレーク・シティの裕福な実業家で、珍しい骨董品の収集家でもあったデイヴィッド・パーキンと、その妻であるメアリーアン・パーキンの物語。語り手は、未亡人になったメアリーアンの館にしばらく同居していた「わたし」で、彼女からグランドファーザーズ・クロックを譲り受け、さらに、「ジェナ(語り手の娘)が結婚する時に贈り物としてあげて」と美しいローズゴールドの時計を託されていた。
各章のはじめにデイヴィッドが残した日記帳からの抜き書きが記され、それに続いてデイヴィッドとメアリーアンの物語が語られていく。まず、1908年4月に二人が出会った場面で、二人の外貌や人柄が簡潔に描写される。それから、メアリーアンに夢中になっていくデイヴィッドに対して、生真面目な秘書としての姿勢を崩さないメアリーアン、というすれ違いの日々を経て、夏のある日、メアリーアンが衝撃的な告白をする。しかしその告白は、デイヴィッドのメアリーアンに対する愛情をより高める結果となり、二人は結婚することになる。
結婚の件だけでなく、黒人のローレンスと親しく交流し、襲ってきた暴漢を銃殺してしまったローレンスの身代わりになって裁判を受け、それを恨んだ者から放火されて燃え上がった家から娘のアンドリアを救い出し……と、デイヴィッドはまさに聖人のような人物なのだ。そのデイヴィッドも、酷いやけどのせいでアンドリアが死ぬと、憎悪と絶望から復讐という暗い情念にかられる。しかしそんなデイヴィッドをメアリーアンは静かに諫めて復讐を思いとどまらせる。メアリーアンもやはり並の人間とは違う聖人だったのだ。
崇高な精神をもって崇高な人生を送った夫婦の、「世にも麗しい物語」に仕上がっている。全米で300万部の大ベストセラーだと聞けば、なるほど、と納得もできる。それでも一方では、モルモン教の町ソルトレークに住む作家によるソルトレークを舞台にした話とくると、もしかしたら300万というのはモルモン教の人たちが押し上げた数字では?という思いも頭をもたげる。別にモルモン教に反感があるわけではないが、あまりにできすぎた主人公たちにちょっと抵抗を感じてしまうのだ。(2011.12.1読了)
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by nishinayuu | 2011-03-24 10:05 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)

読書と韓国語学習の備忘録です。


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