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『みずうみ』(よしもとばなな著、新潮社)


c0077412_10324415.jpg読書会「かんあおい」2010年11月の課題図書。私にとっては『キッチン』『とかげ』以来の三冊目のよしもとばななである。
語り手はママを亡くしたばかりの「ちひろ」で、壁画専門の売れない画家である。私生児として育った息苦しい田舎町を逃げ出してひとり暮らしをしている。アパートの窓から外を眺めるのが癖のちひろは、斜め向かいのアパートの窓辺でやはりいつも外を眺めている中島くんに気づく。中島くんもちひろに気づいて二人は遠くから挨拶を交わすようになるが、長い間ちひろは窓辺の中島くんを風景のように眺めるだけで慰められていた。
ママのことで長く部屋を開けていたちひろが戻ってきたとき、街でばったりであった二人は初めて一緒にお茶を飲む。そのとき中島くんが言う。「ちひろさんの窓明かりがないと、つらくて寂しい」と。それから少しずつ二人は近づいていき、やがて中島くんはちひろの部屋で泊まっていくようになる。そうなるまでに少なくとも1年はたっていた。
中島くんは変わった見た目をしていた。棒っきれみたいな手首、長い指、ぽかんと開いた口、首筋の情けないような線……。ちひろは「中島くんが好きで好きで、いつか中島くんが星になる日が来ても(彼には星になるのが似合いすぎる。そもそも彼は生きている感じが薄すぎるのだ)、私は中島くんの魂とともにいるだろう」と思うのだった。そんな中島くんがある日、静かなみずうみのほとりに住む懐かしい友だちに会いに、いっしょに行ってくれないか、つらくて一人では行けないから、と言う。ちひろはすぐに承知する。理由はまだよくわからなかったが、彼を傷つけることは普通の人を傷つけるよりもずっと恐ろしかったから。

深い傷を負った魂に訪れる再生を綴った、希望に満ちた物語でなかなかよかったが、ただひとつ、「す××心」という言葉がひっかかる。口にする人物(ちひろ)の品格を疑わせ、作品全体の品格も下げるこんな言葉を使う必要があるのだろうか。いくらでも違う言葉で言い換えられるだろうに。(2010.10.26読了)
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by nishinayuu | 2011-02-25 10:32 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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