『エトルリアの微笑み』(ホセ・ルイス・サンペドロ著、渡辺マキ訳、NHK出版)


c0077412_10231770.jpgスペインはバルセロナ生まれの経済学者であり小説家であるホセ・ルイス・サンペドロが20年ほど前に発表したもので、100万部を超えるベストセラーになっているという。
元パルチザンの闘士だったサルバトーレ・ロンコーネ(またの名ブルーノ)は、南イタリアの故郷に別れを告げて息子の車でミラノに向かう。途中のローマで、息子が大学教授の妻の仕事のことで人と会うことになっていたので、ブルーノはヴィッラ・ジュリア博物館に立ち寄る。そこでであったエトルリアの遺物「夫婦の棺」にブルーノは釘付けになる。棺の蓋の上に夫婦の像があり、二人の顔には知的で謎めいて、穏やかだが官能的な微笑みがあった。どうして死ぬときに微笑んでいるのか、どうしたらこのように笑って死ねるのか。ミラノに向かう道でも、息子夫婦の家に着いてからもエトルリアの像の微笑みはブルーノの心を捕らえて放さない。ミラノに来たのは癌の検査を受けるためだったが、ブルーノには自分に残された命が長くはないことがわかっていた。
北の都会であるミラノも、女らしさの感じられない息子の嫁も、そんな嫁の尻に敷かれている息子も、ブルーノは気に入らない。けれどもそこには天使がいた。ブルーノと同じ名前が付けられた赤ん坊のブルネッティーノだ。小さいのにもう男っぽさをかいま見せる頼もしい存在でもあり、夜一人で寝かされている部屋で泣き声を上げたりするか弱い存在でもあるブルネッティーノのために、ブルーノは一日でも長く生き続けたいと願うようになる。息子夫婦に隠れて夜、子ども部屋に忍び込んで遊んでやったり、自分の人生を語って聞かせたり、武骨な手で細々と世話を焼いたり――小さな孫と、彼を通して知りあった人びとの交流の中で、息子の嫁のアンドレアから見れば粗野でがさつな田舎者だったブルーノが、そして自分でも男っぽさが誇りだったブルーノが、自分でも意外なことに、いつの間にか身も心も柔らかな人間に変身していき、周りの人たちもそれに巻き込まれるように変化していく。
一人の老人の人生経路と天恵のように訪れた至福の時を、きびきびした無駄のない文体で綴った傑作。(2010.10.21読了)
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by nishinayuu | 2011-02-22 10:23 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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