『遙かなる航跡』(リシャール・コラス著、堀内ゆかり訳、集英社)


c0077412_1035137.jpg第1章「師走 鎌倉」に始まり、第36章「師走 鎌倉」に終わる一人の男性の半生の物語。作者がユニークで、1953年にフランスで生まれ、パリ大学東洋語学部を卒業。在日フランス大使館勤務を経て1981年にジバンシィ日本法人代表に就任、1999年からはシャネル日本法人社長、という経歴の持ち主で、この作品が初めての小説だという。
旅行者としてパリから日本にやってきた青年の「ぼく」は、日本語が話せない金髪碧眼のガイジンを歓迎してくれる人なつっこくて心温かい人びとに接しながら、快い旅を続けるうちに、運命の女性と出会う。夢のように美しいその女性と夢のような数日を過ごし、再会を約束して別れるが、二人をつないだ糸はそこでぷつりと途切れてしまう。33年後の11月、銀座にある会社のオフィスで、「ぼく」は一通の封書を受け取る。「浅黄色の和紙に、季節にふさわしい紅いもみじの透かしがある細長い封筒。優雅で女性的な封筒。裏に差出人の記載はなかった。(中略)手紙からかすかな香りが立ち上がり、手にしたとき軽い目眩がした。(中略)なじみのある匂い、記憶の奥底にしまい込まれたほのかな光がアラームのように点滅していたが、どこかで、どんな状況でこの匂いを嗅いだのか思い出せなかった。」
主人公が青年だった1972年と、銀座に社屋を構えるブランドの社長となっている現在が交互に語られ、主人公が封印していた過去がしだいに明らかになっていく。ミステリー風のストーリー展開と全編にあふれる日本論、日本人論でぐいぐい読ませる力作である。主人公はフランス人だが舞台のほとんどが日本なので、いつのまにか日本の小説を読んでいるような気がしてくる風変わりな翻訳小説である。(2010.10.19読了)
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by nishinayuu | 2011-02-19 10:36 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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