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『1/4のオレンジ5切れ』(ジョアン・ハリス著、那波かおり訳、角川書店)


c0077412_10104534.jpg『ショコラ』の作家が2001年に発表した作品で、原題は『Five Quarters of the Orange』。ジュリエット・ビノシュとジョニー・デップの共演で映画化された『ショコラ』は、とろりと甘いミルクチョコレートのような幸せいっぱいのお話だった(原作は読んでいないので、あくまでも映画の印象ですが)。それに対して本作品は、オレンジのように刺激的で強烈な味わいの物語である。
物語は「母親は亡くなるとき、兄のカシスに農園を托した。姉のレーヌ=クロードには、地下庫に眠るひと財産はあろうかというワイン。そして末っ子のわたしには、雑記帳一冊とペリゴール産トリュフが一個(中略)富の分配としては明らかに不公平だった」という文で始まる。しかし兄は農園に興味をもたずにパリに住み着いてしまい、村いちばんの美少女だった姉も財産を活かすことができないままに終わってしまう。結局、暗号のようなメモやら料理のレシピやらがびっしり書き込まれた雑記帳こそが、母親がすべての思いを込めて語り手に托し、その思いが活かされることになった最も価値のある遺産だったのだ。
64歳になった語り手のフランボワーズ・ダルティジャンは、兄から農園を買い取って55年ぶりに故郷に戻ってくる。その際変名を使ったのは、ダルティジャンの名が過去の忌まわしい事件と結びついており、村人に身元を見破られるのを恐れたからだった。過去の忌まわしい事件とは何なのか、そしてその事件に語り手はどんな関わりがあるのか。農園を経営しながら、やがて小さなクレープ屋を開店した語り手の現在進行中の日々と、雑記帳を繙きながら思い起こされていく過去の日々が並行して語られていく中で、過去の事件と語り手が抱える秘密が解き明かされていく。
フランスがドイツの占領下におかれていた1942年、ロワール川のほとりの小さな村にもドイツ兵達が現れた。語り手は9歳で、母親に愛されていないと思いこんでいた。まだ学校にも行けず、満たされない心をもてあましていた語り手は、目の前に現れたドイツ兵のトーマス・ライプニッツの笑顔と優しさの虜となる。トーマスに惹かれたのは語り手だけではなかった。兄も姉も、そしてどうやら母親も……。(2010.10.1読了)
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by nishinayuu | 2011-01-29 10:10 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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