「ほっ」と。キャンペーン

『The Iliad 』(Homer著, Lang, Leaf, Myers英訳、Gutenberg Project)

c0077412_10295365.jpg紀元前1182年の出来事と推定されるトロイア戦争を詠ったホメロスの叙事詩の英訳である。
ホメロスの叙事詩は、戦争のきっかけとなった事件については語らず、ギリシア軍がトロイア攻撃を始めてから9年目の出来事――アキレウスとアガメムノーンの仲違い、アキレウスが戦闘から身をひいたことによるギリシア軍の苦戦、アキレウスの親友パトロクロスの戦死とアキレウスの悲しみ、復讐のために立ち上がったアキレウスとトロイアの英雄ヘクトールの対決、ヘクトールの死によるアキレウスの復讐の終結――を物語っている。
興味深かったのは、神や人間が特有の形容語とともに語られることで、たとえばゼウスはaegis-bearing Zeus、ゼウスの妻ヘラはox-eyed Hera 、その娘のアテーナーはbright-eyed Athene、アポロはfar-darterという具合である。神につく形容語はほぼ固定的であるのに対して、人間につく形容語は流動的で、一人の人間に複数の形容語がついたり、同じ形容語が複数の人間に使われたりする。たとえばアキレウスはfleet-footedだったりgodlyだったりし、アケイア人はflowing-hairedであったりmail-cladだったりする一方、wide-rulingのアガメムノーンもgolden-hairedのメネラオスもときにはnobleと形容される。すなわちこれらの形容語は、そのときどきにその人間の置かれている状況を一言で示すはたらきをしているのだ。ほとんど常にnobleで、ときにはdear to Zeusと形容されるオデッセウスは、そうとうdear to Homerだったと思われる。
内容に関して特に興味深かったのは次の2点である。
1.戦って相手を倒した者は必ず相手の鎧甲を引き剥がすこと。こうして相手を侮辱するのであるが、首を刎ねるのに比べると重くて大変そう。
2.人間同士の闘いなのに、神々がやたらに介入すること。そもそもトロイア戦争の原因を作ったのも神であるが、闘っている人間の前に姿を変えてたち現れ、耳元で何か囁いて惑わしたり、あわやこれまでという人間を霧に包んで逃したり、致命傷を与えるはずの槍方向を逸らしたり、とお節介なことこの上ない。それでも、トロイア側についたアポロ、アーレス、アフロディテや、ギリシア側についたヘラ、アテネーのやることは一貫していて理解できなくもないが、納得できないのはゼウスである。始めはアキレウスに同情してアガメムノーンを憎み、トロイアに勝利を与えようとしたのに、アガメムノーンの祈りを聞くとアガメムノーンを哀れんでギリシア軍の味方をする。ヘクトールの英雄的な闘いもその死も、すべてゼウスが意のままに決定したものである。ともかく、人間は神々の前ではチェスの駒のような哀れな存在である。第24章にある次のことばのように。
This is the lot the gods have spun for miserable men, that they should live in pain; yet themselves are sorrow-less. For two urns stand upon the floor of Zeus filled with his evil gifts, and one with blessings.
(2010.9.30読了)

☆画像はUniversity of Michigan Pr. のものです。
[PR]
by nishinayuu | 2011-01-26 10:31 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://nishina.exblog.jp/tb/15822134
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
<< 『1/4のオレンジ5切れ』(ジ... 『パンプルムース氏の秘密任務』... >>