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『時計を巻きに来た少女』(アン・タイラー著、中野恵津子訳、文藝春秋)

c0077412_9431562.jpg著者の第4作目の小説で、発表は1972年。ボルティモアに住む一族と、偶然その一族と関わるようになった一人の少女の、1960年から1970年にかけての10年間の出来事が綴られている。
「その家はすでに実用にそぐわなくなっていた。茶色いこけら板に覆われ、ひっそりとうずくまる怪物のように大きな建物で、道路のすぐそばに立っていたが、裏には林があり……」という家の主・エマーソン夫人は、25年間この家で便利屋として働いてきたリチャードを薔薇に「立ち小便」をしたかどで首にする。何でも頼っていた夫を3ヶ月前に亡くしたエマーソン夫人は、たちまち不安になる。家中のあちこちに時計があって、そのねじを巻く日はまちまちなのだが、それを手順通りに巻いていたのは夫だったからだ。憂鬱で侘びしい気分を振り払おうと、とりあえず庭の椅子を物置に閉まる作業に取りかかったエマーソン夫人が、椅子と確答していると、通りから「お手伝いしましょうか」と声がかかる。声の主はダンガリーの服を着た背の高い娘で、大学を休学して学資稼ぎの仕事を探しているという。それでは、とエマーソン夫人はエリザベスというこの少女を住み込みの便利屋として雇う。
エマーソン夫人は、あれこれ修繕するのが好きで身軽に雑用を片づけるエリザベスをすっかり頼りにするようになる。そして長男のマシューと次男のティモシーは、以前よりも頻繁に母親の顔を見に来るようになる。どちらもお目当てはエリザベスだ。そしてある日、エリザベスの気持ちがマシューにあることをティモシーが知ったとき、取り返しのつかない事故が起こり、エリザベスはエマーソン家を立ち去ってしまう。

エマーソン夫人と息子たち、娘たちからなる一族は、自他共に認めるかなりおかしい一族であるが、それについて1961年6月12日付けのエリザベス宛の手紙でマシューは興味深い言葉を述べている。「僕らは事件を起こしやすい血筋なのです。どこの家族でも事件はあるでしょうが、ぼくの一家は少々度が過ぎるというだけです。バカ騒ぎ、喧嘩、興奮――でも、それはわざとしているもので、僕らをつないでおくための演出なのです。」
その通りなのだ。彼らは常軌を逸した変な人たちに見えるが、表現方法がずれているだけで、ごくまともな愛すべき人びとである。彼らよりも、一見まともに見えるエリザベスのほうが、つかみ所のない不可解な人物に思える。(2010.9.23読了)

☆エリザベスが投票(ヴォート)と言ったのを、エマーソン家の娘のマーガレットが舟(ボート)と聞き間違える場面があります。ネイティヴ・スピ-カーでもこんなことがあるのかと思うとちょっと嬉しくなります。
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by nishinayuu | 2011-01-20 09:43 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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