『ザーヒル』(パウロ・コエーリョ著、旦敬介訳、角川書店)

c0077412_8594061.jpg『アルケミスト』の著者が、名声も富も手にした60歳近い作家、という自己と重なる人物を語り手として描いたドキュメンタリー的な小説。
タイトルの「ザーヒル」とは何なのか。
*アラビア語で、目に見える、そこにある、気づかずにすますことができない、という意味である。何か、あるいは誰か、ひとたび接触をもってしまうと、徐々に私たちの考えを支配していくことになって、ついには他の何にも意識を集中できなくさせてしまうもののことである。それは聖なる状態とみなすこともできるが、狂気ともみなすことができる。
*世代から世代へと受け渡されてきたものすべてに対する執着のことであり、すべての質問に答えを用意してしまうもの、すべてのスペースを埋め尽くしてしまって物事が変化する可能性を考慮するのを禁じてしまうものに、盲従してしまうこと。
語り手はある日、警察に拘留される。10年以上連れ添った妻・エステル(30歳)が、23~25歳くらいの身元不明の男と失踪したため、関わりを疑われたのだ。エステルの失踪した時間に語り手がいっしょにいた恋人がアリバイ証言をしてくれたおかげで、語り手はすぐに自由の身になる。しかし、失踪によってザーヒルと化したエステルにがんじがらめにされた語り手に、もはや自由はない。ジャーナリストで侵攻が間近に迫ったイラクから戻ったばかりのエステルは、いっしょに失踪した男のことを、以前からの知り合いでとても大切な人だ、と語り手に言っていた。 語り手はこのミハイルという偽名を使っている男の所在を突き止め、彼に導かれるようにしてエステルを探し求める旅に出る。パリを出て、遠くカザフスタンのアルマトイへ、そしてさらにステップへ。それは語り手があらゆるザーヒルから解放される旅となったのだった。
(2010.9.21読了)
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by nishinayuu | 2011-01-14 08:59 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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