『マン嬢は死にました。彼女からよろしくとのこと』(H・ツェンカー著、上松美和子訳、水声社)

c0077412_10481659.jpg「現代ウィーン・ミステリーズ・シリーズ全9巻」の第3巻。著者のヘルムート・ツェンカーは1979年生まれで、ウィーン在住。さまざまな職を転転としたあと、小学校や特別養護学校の臨時教員も経験しているという。そんな経歴のためだろうか、本作品は身体に障害のある若い女性探偵を主人公に据えたユニークなミステリーである。
ウィーンのシュテファン大聖堂に近い小路に探偵事務所を構えるミニー・マンは、身長が1㍍20㌢しかなく、歩行には松葉杖が必要な22歳の女性で、明晰な頭脳と辛辣な弁舌の持ち主。ある日、幾つものゲームセンターのオーナーであるエヴァ・シュネラーから、仕事の依頼が舞い込む。「失踪していた夫を見つけたので、最後の話し合いのために夫を自分のところへ連れてきてほしい」という。ミニー・マンはヨゼフ・クラップと名告っているその夫をうまく騙してエヴァのもとへ向かわせることに成功するが、彼はエヴァの家に着く直前に何者かに襲われて殺されてしまう。ミニー・マンは自分の身にも危険が迫るなか、身障者であることをフルに活用して相手を油断させ、ときには松葉杖を武器に戦って、犯人を追い詰めていく。
強盗、殺人、少女売春などの凄絶で陰湿な犯罪の世界が描かれていながら、ハードボイルド・ミステリーにはなっていない。愛車のキャデラックが人目を引くことを嬉しがっている主人公をはじめ、見当外れのことしかできない大食漢の助手、土壇場になっても格好を付けたがる殺し屋たち、「自発的な敗北を好む」警視など、登場人物たちにどこかかわいげがあるからだ。それでもとにかく犯罪小説なので、観光客の目に映る美しいウィーンの裏にある、暗くて怪しいウィーンが浮かび上がってくる。
各章のタイトルはKissing’ On the Phoneのようになぜか英語になっており、本文にもときどきIt’s Now Or Neverといった歌のタイトルが英語で出てくる。訳者によると、これらは主に70年代のポップミュージックのタイトルで、ほとんどが英語のまま日本に紹介されていることから、敢えて和訳しなかったという。(2010.9.20読了)
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by nishinayuu | 2011-01-11 10:48 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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