『失われた時を求めて 6』 (マルセル・プルースト著、鈴木道彦訳、集英社)

c0077412_103927100.jpg第3編「ゲルマントの方」のⅡが収められた巻である。
祖母の病気と死の話で始まり、アルベルチーヌの訪れ、ヴィルパリジ夫人邸での夜会、ステルマリア夫人との行き違い、サン・ルーとの友情の一夜、ゲルマント公爵邸での晩餐会、シャルリュス邸訪問などが語られたあと、死の病に冒されたスワンと死の床にあるオスモン公爵の話題で締めくくられる。
最も多くのページを割いて語られているのが、ゲルマント公爵邸訪問の部分で、すでに公爵夫人への恋から覚めている語り手は、貴族とその代表としてのゲルマント公爵夫人を徹底的に観察し、分析している。
たとえば、レストランの主人といったレベルの人間は、回転ドアの所でとまどっている語り手をあからさまにぞんざいに扱うのだが、ゲルマント夫人のような貴族の場合は語り手が食堂の席に着くときに間違った側に身を置いたのを見て取ると「実にうまく私の周囲をぐるりとまわってくれたので、いつの間にか私は自分の腕の上に彼女の腕が乗せられているのを見出し、こうしてごく自然に、的確で貴族的な動作のリズムの中に組み込まれてしまった」という具合に、他人に気後れを感じさせない動作が自然に身についていることに感嘆する。
しかし一方で語り手は、ゲルマント家の人びとが自分たちと違う人種である語り手のメリットに羨望をかき立てられているらしいこと、そして彼らが表明する尊敬や羨望が、軽蔑ないし驚きと同居していることに気づく。さらに語り手は、「夫人の知性と感受性はくだらない社交生活にすっかり毒されて、たえず右に左にと揺れているので、なにかに夢中になっていてもたちまちそれが嫌悪に早変わりする」と指摘し、甥であるサン・ルーがより安全な部署に移れるよう働きかけることを拒否したばかりか、親切にも将軍に話してみると言いだしたパルム大公夫人を思いとどまらせようとあらゆる手を尽くすゲルマント夫人を見て、「私はゲルマント夫人が正真正銘の意地の悪い女性であるのを見てとって、かっとしたのであった」とまで言う。
ゲルマント公爵夫人をめぐって展開するこの巻で、もう一人特に注目すべき人物が、終わりのほうに登場するシャルリュス男爵である。夫人の貴族的流儀はかなりわかりやすいが、シャルリュス氏のそれは複雑でわかりにくい。 そのわかりにくい流儀でぶつかってくるシャルリュス氏に語り手がついにかんしゃくを起こして、シャルリュス氏のシルクハットを踏みつけてずたずたにする場面があるが、この後のシャルリュス氏の態度がまた興味深い。(2010.9.10記)
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by nishinayuu | 2011-01-08 10:39 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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