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『A Long Way from Chicago』(Richard Peck、Puffin)

c0077412_113856.jpgシカゴに住む兄妹が、イリノイ州の田舎に住むおばあちゃんのもとで夏を過ごした数年間の物語。ふたりが初めて一夏をおばあちゃんと過ごすことになったのは1929年、兄のジョーイが9歳で、妹のメアリ・アリスが7歳のときだった。
さて、このおばあちゃんだが、無愛想で近所づきあいも悪いし、常識外れの突飛なことを平気でやってのける。たとえば、お祭りでケーキ作りのコンテストがあったとき、自分のより上手なケーキについている名札を、自分の名札と入れ替えてしまう。同じお祭りの複葉飛行機の試乗という出し物のところでは、試乗に必要な各部門の優勝者に与えられるブルーのリボンを捏造して、乗りたがっていたジョーイを乗せてしまう。教会のバザーのときは、屋根裏にあった古い帽子にAL、キルトにMTLというイニシャルをつけて、アブラハム・リンカーンの帽子だ、メアリ・トッド・リンカーンのキルトだと思いこんだ町の名士夫人に高額で購入させてしまう。同じ名士夫人の父親で90歳の老人が「最年長者」として受賞するという話を聞くと、町外れに住む「103歳の老人(実は本当の歳は不明)」を担ぎ出して名士一族の鼻をあかす、という具合。同じイリノイで、時代も重なる『たんぽぽのお酒』の、あの知的で良識のある、教育的なおじいちゃんとは大違いの、実に非教育的なおばあちゃんなのだ。ただし、それはおばあちゃんが世間体に惑わされず、自分の信念に従って生きているからなのであって、誰もが町から追い出すことだけを考えている流れ者たちのために大量に食べ物を用意してゆっくり食べさせてやったり、家を追い出された仇敵の女友達のために家を取り戻してやったりする、すてきなおばあちゃんでもあるのだ。1935年までの7回の夏をそんなおばあちゃんと一緒に過ごすうちに、メアリ・アリスはしぐさや表情がだんだんおばあちゃんに似てくるし、ジョーイは幽霊伝説を利用して恋人たちの逃避行に手を貸してやるような、おばあちゃん並みに悪知恵の働く若者になる。いつの間にか息のあった三人組になっていたわけだが、おばあちゃんと孫が互いをどう思っているのかを直接語ることばはないまま、物語は次のような絵画的で印象的な場面で締めくくられている。
「ずっと後の1942年、第2次大戦が始まって空軍に志願したジョーイは、訓練所に向かう列車がおばあちゃんの町を通ることを電報でおばあちゃんに知らせる。列車が町にさしかかったのは夜明け前で、町は寝静まっていた。が、町外れにある最後の家には煌々と明かりがともっていた。そしてドアの前には明かりに縁取られたおばあちゃんの大きな姿があった。おばあちゃんは列車が通過する間、どこに乗っているのかわからないジョーイに向かってずっと手を振り続けていた」(要約)
1999年ニューベリー賞の受賞作。世界恐慌が生んだ流れ者の群が町に押し寄せたり、ジョン・デリンジャー(FBIから社会の敵No.1と名付けられた銀行強盗)はまだ生きているという噂が流れたり、メアリ・アリスがシャーリー・テンプルを意識したり、ジョーイがリンドバーグに憧れたり、と時代を映すエピソードも多く、児童文学の枠を越えた読み物になっている。(2010.8.20読了)
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by nishinayuu | 2010-12-18 11:03 | 読書ノート | Trackback | Comments(2)
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Commented by H2 at 2011-08-19 20:51 x
はじめまして。先日は拙ブログにご訪問いただいてありがとございます。

この物語、原書で読まれているのですね。私は翻訳で読みました(外国語はまったく出来ないので・・・)。

このおばあちゃん、すてきですよね。やさしいおばあちゃんキャラの小説はあっても、ここまで痛快なおばあちゃんはいないと思うんです。
私も児童文学の枠を超えていて、子どもから大人まで楽しめる本だと思いました。
でも、私はむしろ大人の方が楽しめるのではないかと思うんです。おばあちゃんの世間体や見栄を気にしない姿は、大人にとっての憧れみたいなところがないですか?
Commented by nishinayuu at 2011-08-19 21:39
H2様、ご訪問ありがとうございました。H2さんのブログはときどき拝見していましたが、気楽にコメントを書くことができない性分なので、いわば「のぞき見」状態でした。今回、ご挨拶ができてほっとしております。
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