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『パラダイス・モーテル』(エリック・マコーマック著、増田まもる訳、東京創元社)

c0077412_10511229.jpgエピローグは「パラダイス・モーテルのバルコニーの枝編み細工の椅子に坐って、彼はうつらうつらとうたたねをしている。地面にうずくまるような羽目板の建物は、浜辺のかなたの北大西洋に面している。灰色の空のしたに灰色の海が広がっている。男は厚いツイードのオーバーと手袋を身につけている。(以下略)」という9行の文で始まる。ここに出てくる「彼」もしくは「男」はエズラ・スティーヴンソンという名前で、「わたし」として以下の物語を語っていく。
「わたし」が12歳のとき、30年間失踪していた祖父ダニエル・スティーヴンソンが戻ってきて、「わたし」に異様な話を語り聞かせたあとあの世に旅立った。祖父が帆船の甲板員としてパタゴニアに行ったときに、機関士のザカリー・マッケンジーという若い男から聞いたというその話は――ある外科医が妻を殺害し、ばらばらにした死体の一部を四人の子どもたちの腹部に埋め込んだ。子どもたちは異常を察知した人々の手で病院に運ばれて命をとりとめ、父親の外科医は処刑された。子どもたちの一人がザカリーで、彼の腹部には真横に走る長い傷跡があった――というもの。話を聞いたのは「わたし」だけで、その「わたし」も誰にも話さないまま時が経った。中年になった「わたし」が、ふと妻のヘレンにその話を聞かせたのがきっかけになって、「わたし」による「4人の子どもたちのその後」の探索が始まる。4人はそれぞれ数奇な人生を送っていた。異様で奇怪なエピソードに辟易させられる頃に、物語は急展開を見せて終息し、最後に冒頭の9行がそっくりそのまま繰り返される。
とんでもない物に手を出してしまったと思いながらも、この荒唐無稽な話にどんな結末がつくのだろうかという興味で、最後まで読まされてしまい、最後のほうになるまでこの物語のしかけに全く気づかなかった素直な読者として、著者に心から賞賛の拍手を送りたい。巻末の解説によると「ポストモダンな冗談小説」なのだそうだ。(2010.6.28読了)
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by nishinayuu | 2010-10-23 10:51 | 読書ノート | Trackback | Comments(0)
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